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法然上人と知恩院

伊藤唯眞猊下のお言葉

2017年3月

『心の復興を』総本山知恩院門跡 伊藤唯眞

東日本大震災が起こり、人々は体と心が凍りついた不条理の世界に直面しました。その年の7月末、被災した寺院へお見舞いに行きました。人々の暮らしが一瞬で奪われた光景を目の当たりにし、被災された方のことを思えば思うほど掛ける言葉を失い、ただ合掌することしかできませんでした。私たち僧侶は宗教者として何ができるのかと、自らを問い直す機会が与えられたように感じました。

津波で被災したお寺の裏側で、真っ黒な沼に咲く蓮の花を一本見つけました。底の見えない惨状と一縷の望み。蓮に一条の光があるように感じ、はっとしました。津波を受けても壊れることのない真実が残っていて、その真実は娑婆から仏の世界に通じているようでした。

大震災は、人間だけでなく、有情無情のあらゆるもの一切に斟酌することなく襲いかかり、私たちは無常を見せつけられました。しかし、人は何度も立ち上がれます。足もとはおぼつかなくとも。そして他の人、亡くなった人からも生かされているということに気付かせてくれました。津波に耐え、七万本のうち一本だけ残った「奇跡の一本松」。復興のシンボルとして現在も保存されています。その松の木に勇気づけられ、未来を見つめて生きて行こうと希望を持つことができた人も多いはずです。

慈悲の心は存在するものすべてに及んでいます。我々は有情無情のものすべてを供養していかなければなりません。また、同悲同苦の心を持ちましょう。苦しんでいる人がいれば一緒に苦しみ、悲しんでいる人がいたら一緒に悲しんであげるのです。相手の話にじっと耳を傾け、寄り添ってあげることがケアになります。法然上人のお言葉からも困っている人の味方でなければならないという精神を持つことの大切さが窺えます。一番大切なのは、建物など目に見えるものの復旧ではなく、心の復興をすることなのです。



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