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おてつぎ運動

特集記事

2014年5月

『仏教、自死に向き合う』自死・自殺に向き合う僧侶の会 共同代表 島田絵加

苦しみも楽しみも
わかち合える社会を

私が取材のために東京を訪ねた朝も、線路への無理な飛び込みのためにダイヤが乱れていた。心の中で手を合わせつつ、電車を乗り継いだ。

昨年も2万7千人以上が自ら命を絶った。日本人の死因の第6位で、先進国の中では自死(自殺)率は第一位。「死にたい」という想いは、縁遠いものではない。

そのような状況の中、2007年に首都圏の超宗派の僧侶が力を合わせ、「自死・自殺に向き合う僧侶の会(旧称:自殺対策に取り組む僧侶の会)」を発足。多くの人の「死にたい」という想いや身内を自死で亡くした人びとの悲しみに寄り添ってきた。

同会には現在50人の僧侶が所属し、手紙による自死の相談を受け付けている。相談者の悩みに対して、3~4人の僧侶がチームとなって向き合い、文案を練り、手書きで清書して返信する。2014年3月31日までに991名から5609通の書簡を受け取ってきた。

現在6人の共同代表のうちの一人である浄土宗東京教区光源寺副住職の島田絵加さんは、身近に自死を選んだ人がいて自死が他人事ではなくなったことがきっかけで、活動にかかわり始めた。

「苦しむ人のそばにいることが、お釈迦さまの遺志を継ぐことだと思います。相談者にとっても、仏教の大きなつながりを感じるから安心感を持ってもらえるようです」と、僧侶が自死にかかわる意義を強調する。

「でも、悩みをすべて引き受けてあげるのは無理だし、解決にもならないんです。私にできるのは、苦しいときにそばにいることぐらい。心が穏やかになれば、相談者本人の心が回復していく力が自然と生まれてきます」───肩の力を抜いて、手紙の向こう側にある相談者の心を日々受け止め続けている。

「人はなぜ死にたいとまで思いつめるのでしょうか」と尋ねてみると、「理由は単純ではありません。大切な人を失ったり、借金を抱えたりという大きな問題以外にもさまざまな悩みが折り重なっています。死にたいとまで思う前に、誰かと苦しい思いを共有できれば少しは楽になれると信じています」との答えが返ってきた。そして、「もちろん楽しいことも大好き」と微笑んだ。毎年7月9日と10日に開かれる光源寺の縁日「四万六千日(しまんろくせんにち)」にも精を出すのは、島田さんのもう一つの顔だ。笑顔の向こう側に苦楽をともに味わう深いぬくもりを感じた。

どんな人も、
死後は極楽世界へ

「いのちの集い」終了後に、
適切な対応ができていたかを入念に話し合う僧侶たち

「自死・自殺に向き合う僧侶の会」では、書簡での悩み相談だけでなく、自死遺族が抱えるひときわ深い悲しみにも寄り添ってきた。

2007年から毎年12月に追悼法要をつとめるほか、2009年6月からは毎月第四木曜日に築地本願寺で自死遺族の「いのちの集い」を行っている。悲しみを分かち合う場はいくつもあるが、阿弥陀様の安置されたお堂で、僧侶が聞き手をつとめる場は独特の安心感があるらしく、繰り返し参加される方も少なくない。

参加者に親しまれている陰には、同会の僧侶が自分たちの果たすべき役割を見つめて研鑽し、「涙を流し、喜んで帰ってくださる環境づくり」に配慮してきた努力がある。私が訪ねた日も、共同代表の一人、日蓮宗永寿院住職 吉田尚英さん(53)が、話題提起を行っていた。

「仏教で説く地獄絵図のような情景は、普段は気に留めることがなくても、身内を自死で失ったときに、ふとフラッシュバックします。自死で亡くなった人が地獄に堕ちて苦しい想いをし続けているのではないか、どうすれば救われるのか、とよく聞かれます」と吉田さんは指摘する。「地獄のとらえ方は各宗派で異なる。お互いの教義をふまえて、それぞれがどう答えるのか考えておく必要がある」といい、「いのちの集い」終了後に所属する僧侶たちと討論を行った。

島田さんも「故人が極楽往生されたかどうか悩んでいるという相談を受ける」という。「『最後まで頑張った方ですから、いまは阿弥陀様のもとで心穏やかにおられます』と伝え続けると、『ああ、よかった』とご遺族の方も徐々に安心した表情になられます」

どのようなお葬式を行い、きっちりと悲しみに寄り添えるか、仏教者の役割が問われている。今日の日本において「自死」に無関心であり続けることはできない。「自死・自殺に向き合う僧侶の会」は、自死の苦しみや悲しみを癒していくなかで、ともに苦しめるあたたかい社会を生み出しつつあるように思われた。

(取材・文 池口龍法)

プロフィール
島田 絵加(しまだ えか)
昭和57年東京都生まれ。日本女子大学家政学部住居学科卒業。東京都文京区光源寺副住職。自死・自殺に向き合う僧侶の会 共同代表。
自死・自殺に向き合う僧侶の会
  • ●自死に関する相談のお手紙(書簡)は、下記あてにお寄せください。
    〒108-0073 東京都港区三田4-8-20 往復書簡事務局
  • ●ともに活動する僧侶の方は下記あてにご連絡ください。

毎年1回(平成27年は6月10日(水)夕刻より)、増上寺にて自死者追悼法要「倶会一処(くえいっしょ) ~ともに生き、ともに祈る~」(主催:浄土宗東京教区教宣師会/協力:自死・自殺に向き合う僧侶の会ほか)を執り行っています。お問い合わせは下記まで。

「ともに祈る」事務局
  • ●メール 
  • ●電話 080-3531-4079(平成27年5月1日~)
  • ●FAX 03-5472-4567
  • ●郵便 〒105-0011 東京都港区芝公園4-7-4
       浄土宗東京教区教務所内「ともに祈る」係


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