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おてつぎ運動

特集記事

2017年10月

『人とのつながりを思い起こす』釜ヶ崎見送りの会代表 杉本好弘

大阪市西成区の北部には、あいりん地区(釜ヶ崎)と呼ばれる地域がある。この地はかつて男女比がそれほど変わらない町だったが、1960年代に起こった大規模な暴動や労働運動を機に、暴動の起こる地域にはふさわしくないと家族世帯を他の地域へ移転させる行政措置がとられた。その一方で1970年の大阪万博の開催地建設という理由もあり、簡易宿泊所を増設し、ひとり身の労働者を次々と受け入れた。これにより、あいりん地区は単身男性の集まる日雇い労働者の町へと姿を変えていく。ところが1990年代の不況の時代に入ると日雇いの仕事が激減。多数の労働者は職を失い、簡易宿泊所の宿賃が払えず路上生活を余儀なくされた。現在では国の対策で生活保護の適用が進み路上生活者は減少したが、土地や家族との縁が切れている人が多く、社会的な孤立が問題となっている。

僧侶としてできること

このような場所で活動しているのが浄土宗僧侶の杉本好弘さん(73)だ。杉本さんは地方自治体の職員として勤務していた。定年退職後、残りの人生の過ごし方を考えた時に、子どもの頃から関心を持っていた仏教を改めて学ぼうと思い立つ。佛教大学に編入学し、僧籍を取得した。しかしながら寺を持たない在家の身。自分にできることは何かと模索した時に目に留まったのがあいりん地区だった。単身の高齢者が多いこの地では、僧侶や葬儀を必要としている人が多いのではと考えた。

歌集を片手に声高らかに歌う

まず杉本さんが始めたのは青空カラオケだった。得意とするアコーディオンを伴奏に、路上生活状態にある人にも、カラオケを楽しんでもらいたいと考えたのだ。萩ノ茶屋南公園(通称・三角公園)で作務衣姿の杉本さんがアコーディオンを奏でると、その音色に誘われ人々が姿を見せる。参加者はアコーディオンの伴奏に合わせ、杉本さんが制作した歌集を片手に声高らかに歌う。毎週開催すること8年、今では歌集が6冊になるほど曲のレパートリーも増えた。また、お気に入りの曲を熱唱する人の他に、嬉しそうに杉本さんと言葉を交わす人もいる。杉本さんに会い、話ができるのも青空カラオケの楽しみのひとつだそうだ。

人生の最期にむけて

葬儀には多数の会員が参列

あいりん地区では生活保護受給者が亡くなり、親族と連絡がとれない場合は行政のマニュアルに従い市で火葬され、遺骨は無縁堂に納められる。ひとり暮らしの多いこの地では誰にも知られることなく死を迎えることも珍しくない。人生の最期を誰にも知られることなく終えるのは寂しい、誰かに見送ってもらいたい。そう願う人々のために、杉本さんは2012年に「釜ヶ崎見送りの会」を立ち上げた。会員が亡くなった際には、みんなで葬儀に参列し見送りをしようというものである。活動開始から5年、今では会員数は110人に達した。結成にあたり杉本さんは区役所に協力を求め、会員が亡くなった場合には連絡が入る仕組みを作った。連絡を受けるとすぐに会員全体に通知を行い、葬儀の準備を始める。「私が導師を勤め、この方の人生はこんなにも素敵なものだったんだよと、参列者に伝わるような言葉で引導を渡します」と杉本さんは語る。

会ではこれまでに7人を見送ってきた。8月に執り行われた葬儀の参列者は50人にものぼり、その中には、故人を前にして涙を流し、葬儀が営まれたことに感謝の言葉を述べる遺族の姿があった。今まで別れて暮らしていた理由はあれど、葬儀を機に心のわだかまりがすべて洗い流されたのだろう。「葬儀は死者の追悼だけではなく参列した者の生き方を変える」という見送りの会の理念を体現した葬儀となった。

例会でお互いに近況を報告

また、葬儀へ参列するだけが見送りの会ではない。毎月1回例会を開き、互いに自身の健康状態を報告したり近況を語り合ったりしている。誰かが入院したという報告があれば、見舞いにいく。4年前から入会しているという男性は「私は体が強い方ではなく、毎日体調を心配しながら生活していました。しかし、入会してからはみんなに見てもらえるという安心感からか、以前より健康になった気がします」と話す。見送りの会は、最期を迎える時だけでなく、今を生きるうえでの不安も取り除く存在となっているようだ。

取材を通して、生きる力は人とのつながりから生まれることに改めて気付いた。この力を信じる人が増えていき、杉本さんの活動がこれからも受け継がれていくことを願う。

(取材・文 關真章)

プロフィール
杉本 好弘(すぎもと こうこう)
昭和19年2月6日生まれ。「釜ヶ崎見送りの会」代表。
西成での活動の他に、奈良県奈良市・宇陀市の特別養護老人ホームやデイサービスセンターでアコーディオンを演奏するボランティアを行う。


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