法然上人のお言葉

後篇
第十二章

二河白道にがびゃくどう

念仏者が信心の手で疑心・誹謗の災いを除こうとすれば、諸仏が助けて下さるだろう。

(勅伝第三十二巻)

御法語

むかし太子たいしは、万里ばんりなみしのぎて龍王りゅうおう如意宝珠にょいほうじゅ得給えたまえり。

いまわれらは二河にが水火すいかけて弥陀本願みだほんがん宝珠ほうじゅたり。

かれ龍神りゅうじんいしがためにうばわれ、れは異学異見いがくいけんのためにうばわる。

かれかいからをもて大海だいかいみしかば、六欲ろくよく四禅しぜん諸天しょてんきたりておなじくみき。

れはしんをもて疑謗ぎぼうなんまば、六方恒沙ろっぽうごうじゃ諸仏しょぶつきたりてくみたまうべし。

現代語訳

むかし太子たいしは、万里ばんりなみしのぎて龍王りゅうおう如意宝珠にょいほうじゅ得給えたまえり。

その昔、〔印度の波羅奈国はらなこくの〕大施だいせ太子は、遙か遠い波路をくぐり抜け、龍王が持つ、あらゆる願いがかなう宝玉を手にしましたが、

いまわれらは二河にが水火すいかけて弥陀本願みだほんがん宝珠ほうじゅたり。

今の私たちは〔貪りと憎しみという〕水火の二河に分け入り、阿弥陀仏の本願という宝玉を得たのです。

かれ龍神りゅうじんいしがためにうばわれ、れは異学異見いがくいけんのためにうばわる。

龍王の宝玉は、龍神たちが惜しんだために奪い返されましたが、本願という宝玉は、学説や見解の異なる者によって奪われるのです。

かれかいからをもて大海だいかいみしかば、六欲ろくよく四禅しぜん諸天しょてんきたりておなじくみき。

太子が貝殻で大海の水を汲み干そうとしたところ、六欲、四禅の神々が来て、ともに水を汲み出しました。

※六欲・四禅の諸天=欲界に住む六種の天(四大王衆しだいおうしゅ天・忉利とうり天・夜摩やま天・兜率とそつ天・楽変化らくへんげ天・他化自在たけじざい天)と、色界(四禅天)に住む多くの諸天。

れはしんをもて疑謗ぎぼうなんまば、六方恒沙ろっぽうごうじゃ諸仏しょぶつきたりてくみたまうべし。

私たちが信心の手で〔他宗の人の〕疑いやそしりという困難を汲み出すならば、六方の、ガンジス河の砂の数ほどの諸仏が来て、味方して下さるでしょう。