御法語
「五逆罪と申して、現身に父を殺し、母を殺し、悪心をもて仏身を損ない、諸宗を破り、かくの如く重き罪を造りて、一念懺悔の心もなからん、その罪によりて、無間地獄に堕ちて、多くの劫を送りて苦を受くべからん者、終りの時に、善知識の勧めによりて、南無阿弥陀仏と十声称うるに、一声に各、八十億劫が間、生死にめぐるべき罪を滅して往生す」と説かれて候うめれば、「さほどの罪人だにもただ十声一声の念仏にて往生は、し候え。まことに仏の本願ならでは、いかでかさる事候うべき」と覚え候。
現代語訳
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「五逆罪と申して、現身に父を殺し、母を殺し、悪心をもて仏身を損ない、諸宗を破り、かくの如く重き罪を造りて、一念懺悔の心もなからん、その罪によりて、無間地獄に堕ちて、多くの劫を送りて苦を受くべからん者、終りの時に、善知識の勧めによりて、南無阿弥陀仏と十声称うるに、一声に各、八十億劫が間、生死にめぐるべき罪を滅して往生す」と説かれて候うめれば、「さほどの罪人だにもただ十声一声の念仏にて往生は、し候え。まことに仏の本願ならでは、いかでかさる事候うべき」と覚え候。
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〔『観無量寿経』には、〕「五逆罪といって、この生涯で父を殺し、母を殺し、〔覚りを開いた仏弟子を殺し、〕悪意をもって仏の身体を傷つけ、諸宗の和を乱すという、このような重い罪を犯しながら、少しの懺悔の心もなく、その罪によって無間地獄に堕ちて、非常に長い間、苦を受けるはずの者が、命の終わる時に、善知識の勧めによって、南無阿弥陀仏と十声称えると、一声ごとに八十億劫もの長い間、迷いの境涯を輪廻する原因となる罪を滅して往生する」と説かれていますので、「それほどの罪人でさえも、ただ十声一声の念仏で往生することが出来る。本当に阿弥陀仏の本願〔の力〕によるのでなければ、どうしてこのようなことがあり得ようか」と思われます。
※五逆罪…往生す=『観無量寿経』下品下生(『浄全』一・五〇頁)。
※説かれて候うめれば=説かれているようですから。ひかえめに言う婉曲表現。