法然上人のお言葉

御法語

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現代語訳

双巻経そうかんぎょうの奥おくに、「三宝滅尽さんぼうめつじんの後のちの衆生しゅじょう、乃至一念ないしいちねんに往生おうじょうす」と説とかれたり。善導ぜんどう、釈しゃくして曰いわく、「万年まんねんに三宝さんぼう滅めっして、此この経きょう、住とどまること百年ひゃくねん、爾その時とき、聞ききて一念いちねんすれば、皆みなまさに彼かしこに生しょうずることを得うべし」と云いえり。

『無量寿経』の末尾に、「三宝が滅びた後の人々も、わずか一度の念仏で往生する」と説かれています。善導大師はこれを解釈して、「末法一万年の後、仏・法・僧の三宝が滅びても、この経だけは百年間、世に留まる。その時に阿弥陀仏の名号を聞き知り、一声でも念仏すれば、だれでもかの極楽浄土に往生することができる」と述べています。

※三宝滅尽…往生す＝『無量寿経』（『浄全』一・三五頁）。「三宝」は本来、仏陀（仏宝）と仏の教え（法宝）と出家僧尼の和合する教団（僧宝）をいうが、ここでは仏教を伝持する仏像・仏画と仏教聖典と僧侶と（住持の三宝）を指す。
※万年に…得べし＝善導『往生礼讃』（『浄全』四・三六二頁下）。

この二ふたつの意こころをもて、弥陀みだの本願ほんがんの、広ひろく摂せっし、遠とおく及およぶ程ほどをば知しるべきなり。

これら二つの文意から、阿弥陀仏の本願が、いかに幅広い人々を包みこみ、いかに遠い未来にまで及ぶかを理解すべきです。

※弥陀の…知るべきなり＝後篇第一章「通入」参照。

重おもきを挙あげて軽かろきを摂おさめ、悪人あくにんを挙あげて善人ぜんにんを摂おさめ、遠とおきを挙あげて近ちかきを摂おさめ、後のちを挙あげて前さきを摂おさむるなるべし。

これは罪の重い者を挙げて軽い者を含め、悪人を挙げて善人を含め、遠い未来の者を挙げて近い将来の者を含め、末法一万年以降の者を挙げてそれ以前の者を含めているのでしょう。

まことに大悲だいひ誓願せいがんの深広じんこうなる事こと、たやすく言ことばをもて述のぶべからず。心こころを留とどめて思おもうべきなり。

まことに〔阿弥陀仏の〕大いなる憐れみにもとづく誓願が、いかに深く広く行き届いているかは、たやすく言葉に表わすことなどできません。心を傾けて推おし量はかるべきです。

抑そもそもこのごろ末法まっぽうに入いれりといえども、未いまだ百年ひゃくねんに満みたず。我われら罪業ざいごう重おもしといえども、未いまだ五逆ごぎゃくを造つくらず。然しかれば、遥はるかに百年法滅ひゃくねんほうめつの後のちを救すくい給たまえり。況いわんやこのごろをや。広ひろく五逆極重ごぎゃくごくじゅうの罪つみを捨すて給たまわず。況いわんや十悪じゅうあくの我われらをや。

そもそも、今は末法の時代に入ったとはいえ、まだ百年も経っていません。私たちの犯した悪業は重いとはいえ、五逆罪までは造っていません。それゆえ、遠く三宝が滅んだ後の百年間の者をもお救いになるのです。まして今の時代の私たちをお救いにならないはずはありません。幅広く五逆というこの上なく重い罪を犯した者までお見捨てにならないのです。まして十悪を犯した程度の私たちを、お見捨てになるはずはありません。

※未だ百年に満たず＝末法の到来一〇五二（永承七）年説を採り、上人誕生の年（一一三三年）を言うか。

ただ三心さんじんを具ぐして、専もはら名号みょうごうを称しょうすべし。

ただ、三心を〔欠くことなく〕具そなえて、ひたすら〔阿弥陀仏の〕名号を称えるべきです。