写真:九品佛淨眞寺の阿弥陀如来坐像を撮影する半田カメラさん
知恩院の月刊誌「華頂」と「知恩」で連載いただいている大仏写真家の半田カメラさん。12年前、茨城県の牛久大仏に初めて出会い、想像を超えるインパクトに魅了されて以来、全国各地300尊以上の仏像を写真に収め、書籍やWeb、SNSなどで情報を発信している。
大仏を被写体に
人物撮影を中心とする雑誌やWebのカメラマンである半田さんは、昔から大きなタワーや個性的な建造物に興味があった。牛久大仏をきっかけに全国を巡り歩き、大仏が造られた歴史や宗教的背景、芸術的価値などを知るうちに、仏像そのものに惹かれていったという。
半田さんの大仏写真は、大仏への愛情が表れ、背景に溶け込んだポートレート(人物写真)のようだが、人物撮影とは違い苦労する部分もあるようで、「実際に行ってみたら逆光や日陰ということもあります。特に屋外の仏さまは時間や天候、季節によって見え方が全然違うので、一番魅力的に見える瞬間を狙うため、ロケハン(下見)は欠かせないです」と話す。
変わりゆく大仏
修復され、大切に受け継がれていく大仏だけでなく、維持が困難で廃墟となったり、災害で壊れてしまったりする大仏も少なくはない。本誌では、令和2年7・8月号から12回に渡り、大仏や石仏のコラムを連載。コロナ大仏造立や大仏のマスク奉納など話題となった出来事も取り上げてきた。
大仏の表情はさまざまで、見る人の気持ちや状況によっても変わる。半田さんは、癒されるような優しい人間味のある顔が好みだという。その一つが岐阜市にある岐阜大仏の微笑むお顔。乾漆像で中が空洞であり、職人により約38年の歳月をかけて完成した。素材から柔らかな雰囲気が醸し出されているが、痛みやすいので修復が課題となっている。
また、熊本県玉名市の釈迦説法坐像の優しい笑顔が忘れられないという。戦争で生き残ったお寺の初代住職が亡くなった友人の供養にと地元の仏師と山を切り開き、38mもの大仏を造ったというエピソードも印象深い。お寺から離れた山奥にあるため、夏場は草木が生い茂り顔が見えるだけになるが、自然に返っていく姿もまた素敵だ。
石仏巡りを始めて
取材のため、半田さんと待ち合わせたのは、東京都世田谷区の九品佛淨眞寺。「現世の極楽浄土」と呼ばれ、本堂には釈迦牟尼仏、本堂の対面にある3つのお堂には9体の阿弥陀如来坐像が安置されている。都内に住む半田さんが何度も訪れているお寺だ。「綺麗な横顔ですね」と正面だけでなく横からもカメラを向け、何度もシャッターを切っていた半田さん。
「ここは石仏もたくさんあるんです」と案内された観音堂周辺には、三十三観音像や地蔵菩薩像などがずらりと並んでいた。雨風にさらされ、崩れ落ちている石仏もあったが、「古くても新しくてもそれぞれに良さがあります。常に変化し続けていて、年月が経つと角が取れて柔らかい雰囲気になります。繊細で技術がすごいものから、仏像の定義にとらわれず自由に表現されたものまで幅が広いのも石仏の魅力です」と半田さんは語る。
コロナ禍により、お寺の住職や現地の方に直接話を聞きづらい状況が増え、最近は石仏巡りに力を入れている。
「石仏や岩壁に刻まれた磨崖仏(まがいぶつ)は、山奥にあるものが多く、人ごみを避けられるので、コロナ禍に適しています。お堂の中にある仏さまは老後でもいいんですけど、辿り着くのが難しい場所にある石仏は、今のうちに見ておきたいです」と意欲的に話す。北海道や沖縄、海外などまだまだ行きたい場所がたくさんあるという。
東日本と西日本の大仏本に続き、今年3月には石仏のガイドブック『道ばた 仏さんぽ』(大和書房)が出版される。半田さんが全国を巡り歩いた一〇〇箇所以上の石仏を紹介。「石仏はあまり知らない人が多いので、この本を通して興味を持ち、足を運んでもらえたら」と願う。
素朴で優しい石仏は、参拝者を温かく迎え、そっと寄り添ってくれるはずです。
(取材・文 田口真理)
※ 華頂誌の連載は令和4年2月号で終了しました。月刊誌「知恩」では、来年度も引き続き「日本一周 石仏めぐり」を連載予定です。
プロフィール
半田カメラ(はんだ かめら)
雑誌やWebなどの撮影を手がける女性カメラマン。12年前から大仏巡りを始め、大仏写真家を名乗る。これまで撮影した大仏は約300尊。