左:『フリースタイルな僧侶たち』編集長 京都教区 称名寺 稲田瑞規さん
右:『フリースタイルな僧侶たち』デザイナー 京都教区 念佛寺 福井裕孝さん
宗派を超えた若手僧侶らでつくるフリーマガジン『フリースタイルな僧侶たち』。毎号一万五千部を発行し、全国400ヶ所以上の書店や寺院で配布されている。今年で創刊12年目を迎え、最新号では「地獄」をテーマに誌面をリニューアル。新たに編集長に就任した浄土宗の稲田瑞規さん(29)と、デザイナーに就任した浄土宗の福井裕孝さん(25)にお話を伺った。
編集長になった経緯を教えてください
稲田 『フリースタイルな僧侶たち』にはWEB担当として2年ほど前から関わっていました。それで「58号はどんなのを作ろうか?」と会議をしていたんですが、方針が定まらず滞ってしまっていて。そこで、僕が「一つの雑誌を作るのって誰か一人の覚悟とこだわりが必要ですよね」と生意気にも意見をしていたら、「じゃあ稲田くんやってみたら?」という話になったんです。それまで全くそのつもりはなかったんですけど、「あ、じゃあ」とそのまま編集長になりました。それから新しくデザイナーとして福井くんや、他の編集部メンバーを迎えたんです。
今回「本気で地獄」をテーマにした理由を教えてください
稲田 コロナという未曽有の状況だからか、最近になって「地獄だ」という言葉を身の回りでよく聞くようになったんですよね。芸人さんの間でも「地獄かよ!」ってツッコミも増えてるみたいで、現代における地獄という言葉を考え直すいいタイミングだなと思ったんです。今を生きる人が地獄をどうとらえているのか、それぞれの立場で異なると面白いし、共通する地獄観があれば、バラバラだけどどこか繋がっているという感覚も持てる。その中にコロナ禍を生き抜くヒントが得られるのではと思い選びました。
デジタルで発信できる時代に、紙にこだわる理由を教えてください
福井 出会った人に手渡しできるというのと、お店とかに置いてあると、WEBみたいに自分から探しに行くのとは違って偶然の出会いがあるので、紙である必要はあると思っています。
稲田 最近思うのは、紙だと作っている責任が見えやすいということです。原稿を考えて、デザインして、印刷をお願いして郵送して…。過程がある分、強い実存がある、ってことなんですかね。紙だからこそできる企画も考えていて、この間は「護摩焚きフリーペーパー」というのもやりました。護摩焚きして灰まみれになった雑誌を届けるという。
福井 煙のにおいや肌触りを感じられるのは紙だからこそですよね。他にもコメントを書いた付箋を一部ずつ貼っていこうとか、いろいろ案を出し合っています。
制作するうえで意識していることはありますか?
福井 WEB上で上から下へスライドさせて見ていくのと違って、雑誌というのはページをめくっていくごとに体験が上書きされていく、時間軸みたいなのがあると思っています。単純にコンテンツを並べて終わりじゃなくて、めくった先にどんな内容がくると面白いかとかを考えながら、全体を組み立てています。
稲田 仏教を伝えるためのコンテンツを無理に入れようとは考えてなくて、自然と出てくる仏教のほうがいいなと思っています。作り手が僧侶だと、全然関係のないテーマを扱っても、自然と仏教の香りがただよってくるんですよね。根底にある仏教が自然と出てくる。それが僕の思う一番面白い仏教です。
僕は法然上人のことを、誰もが救われる道のために、仏教を根底から編集し直した一人の編集者でもいらっしゃるのではないかと思っているんです。厳しい修行をしないと救われなかったそれまでの仏教に専修念仏という新しい道を作った、これはとても高度な編集技法じゃないかと。だから、『フリースタイルな僧侶たち』を作っていく上では、法然上人の編集力をリスペクトして、現代における仏教のあり方を根底から見つめ直すという視点をできるだけ忘れたくないんです。
法然上人の時代と比べると今の世の中は複雑で、あらゆる人が情報を発信できる…いうなればそれぞれに独自の宗教を持って、世の中を作っている時代です。僕自身、仏教の言葉だけを信じて生きているかと言われるとそうではなく、好きな作家、好きなアーティストなどからも影響を受けて生きているんですよね。なので、ただ仏教を一方的に発信する雑誌ではなく、現代の苦しみを和らげる要素のひとつが仏教である、という世界観をそのままに表現することを大切にしています。幸せになる方法は人それぞれな時代だからこそ、今はあらゆる思想・宗教・文化の対話が求められているのかなと。この雑誌を通して、仏教と縁が遠い人たちとも友達になって、たくさんお話ができればいいなと思います。
(聞き手・關真章)
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