過去最高の1800人が参加

三門楼上は明け方まで満堂で、念仏の声が響き渡った。
平成8年9月、おてつぎ運動30周年記念「MAKINGサラナ」の諸行事のうちの一つとして産声をあげた「ミッドナイト念仏」。翌年からは御忌大会初日の4月18日に「ミッドナイト念仏 in 御忌」として毎年夜を徹して行われ、今年で18回目を迎えた(平成23年は東日本大震災のため中止)。国宝三門の楼上で夜の8時から翌朝7時まで木魚を打ち念仏を称えるこの行事には浄土宗の熱心な檀信徒も参加されているが、最近では若い世代がカップルや友達同士で参加してお念仏する光景が目立つ。どこで聞きつけたのか外国人の姿も少なくない。
参加者数は年々増加をたどる。平成10年は150名。平成20年は869人。昨年は1300人余り。そして今年は開催日が土曜日だったこともあり過去最高の1800人が参加。もっとも、一度に楼上に入れるのは150人。入りきれなかった人は、お念仏を終えて退出する人を待たなければならない。去年と今年は、深夜24時を回っても三門に入るための長蛇の列がなくならず、木魚念仏するために一時間待ちといった状況が続いた。
人気の理由は?

若い世代の姿が目立つ。親子での参加も。

時刻は24時過ぎ。 三門楼上への入場を待つ長蛇の列。
「仏教離れ」「お寺離れ」と信仰文化の危機が叫ばれる今日である。なぜこれほど多くの人々が集まるのか。「ミッドナイト念仏」という一度聞いたら忘れないネーミングの妙や、三門楼上の荘厳な雰囲気のなかでお念仏を称える特別感も人気の秘密にちがいないが、それだけでは参加者が増加してきた理由を説明できないだろう。
インターネット上、特に、ツイッターなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上で、「ミッドナイト念仏」という言葉で検索してみると、参加した人の体験レポートが数多くヒットする。当日夜8時ぐらいに私も試しにSNSに投稿してみると早速知人から「のぞいてみようかな」「明け方に参加します」などと反応が返ってきた。
今日、地縁のつながりの力は弱いが、インターネット上で趣味関心が合う人どうしのつながりは強まりつつある。仏教に関心を持つ人たちがインターネット上で情報を共有し、「ミッドナイト念仏 in 御忌」のような現実の場で仏縁をいただいていく。私もこの行事を迎えるときに誰かと出会える予感を抱くし、実際、毎年何人もの知人と思いがけない再会を果たしてきた。仏教と接する場がうまく設けられれば、人々はきっと念仏に親しむ。1800人が参加したという事実がそのことを証明している。
念仏の縁をつなぐ「御忌大会おまいりツアー」

御忌大会の日中法要(法然上人御堂)に参列。
伊藤唯眞猊下の入堂に手を合わせる。
会場出口に置かれている一冊のノートに、参加者の感想が綴られている。「亡き祖母と話ができたような気がします」「清らかな気持ちになれました」とお念仏をしみじみ味わってくださった声がある一方で、「木魚のビートが気持ちよかった」「木魚の音がシンクロするのが楽しかった」といったもどかしさを感じるコメントも見える。
初めて参加した人でも見よう見まねで木魚を打ち南無阿弥陀仏と称えられる易しさは、浄土宗の素晴らしい特徴である。易行(いぎょう)往生を説いた法然上人の伝統がいまに生きている。しかし、木魚でリズムを刻む楽しさだけに終始するなら甲斐がない。そこで、おてつぎ運動本部では「ミッドナイト念仏 in 御忌」参加者への限定企画として、今年初めて「御忌大会おまいりツアー」を実施。御忌大会中に3回(4月20日、24日、25日)開催してもっとお寺を知り念仏の心に触れてもらうよう呼びかけたところ、全体の4パーセントにあたる70人が再び知恩院に参集。「日中法要の僧侶の入堂がおごそかで感激した」などと喜んでくださった。
現代の布教のあり方を考える試金石ともいえる「ミッドナイト念仏 in 御忌」。おてつぎ運動本部が新しい仏縁を育むためにどんな創意をこらすのか、来年以降の展開にも注目していて欲しい。
(取材・文 池口龍法)