華頂特集記事Kacho

2019年10月

詠唱で伝える信仰

 昭和21年(1946)7月、戦争で荒廃した人々の心に安らぎや希望を見出してもらうため、「吉水流詠唱」という新しい形の念仏教化が松濤基道上人らによって開始された。吉水流では、御詠歌・和讃にお舞を加えたものを「詠唱」と呼び、信仰の気持ちを豊かに表現している。平成28年から知恩院執事に就任し、吉水講副本部長をつとめる加藤良光師(64)に話を聞いた。

知恩院での活動

 加藤師は、法然上人御堂で行われた涅槃会で「涅槃和讃」、灌仏会で「花まつり和讃」、盂蘭盆会では「霊(たま)まつり和讃」を吉水講講員の方々と熱唱するなど、詠唱の布教活動に取り組んでいる。講員との息の合ったお唱えに、多くの参拝者が聞き入った。

盂蘭盆会で「霊まつり和讃」を奉納
(令和元年7月15日、法然上人御堂)

 平成30年5月からは一般の方に向けて「吉水流詠唱体験教室」を和順会館で毎月開催。初めての方にもわかりやすいように、歌詞に込められた法然上人のみ教えを丁寧に解説し、唱え方の指導はあまりしないように心がけている。「御詠歌は、まずは聞いていただくことが大事です。唱えていただく時には、音程はあまり気にせずに、歌詞を味わいながら楽しく唱えていただきたいですね」
 その和やかな雰囲気のおかげで少しずつ声を出して唱える人が増え、最初は数人だった参加者も回を重ねるごとに増え続けている。加藤師の話を楽しみに参加している人も多く、体験教室での反響を受けて平成31年4月から月刊誌『知恩』で「詠唱をあなたに」を連載開始。どちらも詠唱について楽しく学べると好評だった。

吉水流詠唱体験教室

詠唱で地域をつなぐ

 加藤師が住職をつとめる三河教区普仙寺では、月並法要や、花まつり、彼岸会などの年間行事で詠唱が奉納される。昭和45年(1970)に加藤師の母親・はるさんが普仙寺で吉水流詠唱の指導を始め、地元の念仏講に参加していた50人ほどの女性たちが吉水講講員になった。加藤師とその奥様は、晩年まで吉水流詠唱の普及につとめたはるさんの仕事や熱意を引き継いだ。
 講員の杉浦幸子さん(73)は、普仙寺で詠唱を始めて今年で16年目。きっかけは、早くに夫を亡くし、その14年後に長男も亡くしたことだった。深い悲しみの中で、夫と息子のために何か供養したいと思っていた時に、実家の母と姉から詠唱を勧められた。御詠歌を唱えてみると、歌詞やメロディが心地よくて心が安らいだ。「亡くなった夫と息子の供養のため、そして自分のためにもなると思いました」と振り返る。
 練習は月に2回普仙寺の本堂で行われ、毎回20人ほどが参加。杉浦さんにとっては練習の日に住職や講員の方々と会って話すことも楽しみのひとつだという。「ご住職からは、きそいあってはいけないとよく言われます。それが長続きしている理由かもしれません」
 新曲の講習会や、資格取得のための特別講習会にも参加し、詠唱を始めて10年目には吉水流一級詠唱司の資格を取得した。「これからも普仙寺のみなさんと、三河教区や東海地区詠唱奉納大会に向けて、仲よく和やかに続けていきたいです」と明るく話した。

詠唱のこれから

吉水流の御詠歌、和讃は昔から唱えられてきた曲だけでなく、新曲が発表され、講員の練習用にCDへの収録、販売などが行われている。加藤師は「霊沢上人和讃」(平成25年)、「蓮華寺和讃」(平成30年)、「一向上人和讃」(同上)を作詞。また、浄土宗の宗歌である「月かげ」をもっと多くの人に知ってもらいたいとの思いから、法話の機会があれば必ずお唱えしている。「吉水流詠唱は、御詠歌や和讃、お舞を通して法然上人のみ教えをわかりやすく伝えることができます。皆さんに詠唱を通じて浄土宗を知っていただき、手を合わせていただきたい、その一心です」
 知恩院では、毎年10月4日・5日の2日間にわたって全国から約2000人の吉水講講員が集まり、詠唱を法然上人の御前で奉納する吉水講詠唱奉納大会が開催される。詠唱を難しいと感じる方もいるかもしれないが、まずはお唱えに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

第68回吉水講詠唱奉納大会

日程:10月4(金)・5日(土) 午前10時~
場所:法然上人御堂
お問い合わせ
知恩院吉水講総本部(教務係内) 
TEL:075–531–2157