今年4月に御影堂が落慶を迎え、多くの参拝者を見込んでいたが、新型コロナウイルスの影響で状況が一変。団体での参拝が厳しいなか、まち歩きツアーを企画する団体「まいまい京都」と共催し、知恩院でオンラインツアーを開催。普段は非公開の三門楼上、方丈、経蔵内部と御影堂を2時間かけて知恩院僧侶が案内した。
新しい参拝のかたち
8月30日の午後3時より、テレビ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で知恩院からライブ配信し、事前にツアーを申し込んだ約300人がパソコンやスマートフォンの画面を通して視聴。三門前からスタートし、楼上内では仏像や壁画の説明を行った。経蔵では「皆さんも一緒に南無阿弥陀仏とお称えしましょう」と呼び掛け、お念仏を称えながら、特別に八角輪蔵を回転。続いて、大方丈の襖絵や上段の間、方丈庭園を将軍目線で眺め、小方丈へ向かった。御影堂では、煌びやかに装飾された宮殿や幢幡、大扉の落とし金などを紹介。スライド写真に切り替え、御影堂の修理過程を解説する時間も設けた。
まいまい京都代表の以倉敬之さんと僧侶がナビゲート役として、視聴者からチャットで寄せられたコメントや質問を現場に伝え、双方向コミュニケーションを可能にした。視聴者が画面越しのオンラインツアーは、通常のツアー以上に細かな配慮が求められる。現場に近い臨場感を出すために事前の打ち合わせ、リハーサルでは、進行の仕方や電波状況などを念入りに確認。案内役の僧侶は、対面でなくカメラに向かって話す難しさに緊張しながらも、本番は大きなトラブルなく無事に終了した。
コロナ禍のなかで
まいまい京都では、京都を中心に所要時間2~3時間、定員20名までの街歩きツアーを年間約700コース開催している。まいまいとは「うろうろする」という京ことば。街の魅力を400人以上もの個性あふれるガイドが独自の視点で伝えている。
コロナ禍で街歩きツアーの中止を余儀なくされるなか、5月に二条城で初めてオンラインツアーを行うと、予想を上回る参加者が集まった。7月から8月にかけては、知恩院の他に、祇園祭のお囃子の現地中継、住職によるお寺での怪談話など夏の京都を体感できるツアーを企画し、どれも人気を呼んだ。いつでも街歩きが楽しめるオーディオガイドやYouTubeでの映像配信は以前から行っていたが、これほどの反響はなかったという。ツアーの企画・事務担当の阿比留(あびる)優子さんは、「オンラインツアーはその場を一緒に体験し、みんなで時間を共有できるところが魅力なのでは」と考える。
広がるオンライン化
2011年春に始動し、来年で10周年を迎えるまいまい京都。民間で運営し、参加費で事業を成り立たせているため、予算が切れると事業継続が難しくなる。「今までとは違う手段に気付き、遠方や若い世代の方など新しいニーズを掘り起こせたことは良かったです。街歩きツアーで培ったネットワークを駆使して、まいまい京都らしいライブ配信を今後も続けていきたいです」と阿比留さんは意気込む。「実際に現地を訪れてみたくなった」という声も多く、現在は再開中の街歩きツアーの参加のきっかけにもなっているという。
オンラインでの法要や法事、YouTubeチャンネルの開設など、お寺でもオンライン化の流れが加速している。様々な理由でお寺に行けない方とも簡単に繋がることができる時代となった。社会環境の変化に適応し、変化していくお寺が、これからも人々の心に寄り添う場所であり続けることを願う。
(取材・文 田口真理)