法然上人のお言葉― 元祖大師御法語 ―

後篇
第二十四章

滅罪増上縁めつざいぞうじょうえん

五逆罪を犯した人も臨終に念仏を称えれば阿弥陀仏の本願の力によって往生する。

正如房へ遣わす御文)

御法語

五逆ごぎゃくざいもうして、現身げんしんちちころし、ははころし、悪心あくしんをもて仏身ぶっしんそこない、諸宗しょしゅうやぶり、かくのごとおもつみつくりて、一念懺悔いちねんさんげこころもなからん、そのつみによりて、無間地獄むけんじごくちて、おおくのこうおくりてくべからんものおわりのときに、善知識ぜんちしきすすめによりて、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ十声とこえとなうるに、一声いっしょうおのおの八十億劫はちじゅうおっこうあいだ生死しょうじにめぐるべきつみめっして往生おうじょうす」とかれてそうろうめれば、「さほどの罪人ざいにんだにもただ十声一声とこえひとこえ念仏ねんぶつにて往生おうじょうは、しそうらえ。まことにほとけ本願ほんがんならでは、いかでかさる事候ことそうろうべき」とおぼそうろう

現代語訳

五逆ごぎゃくざいもうして、現身げんしんちちころし、ははころし、悪心あくしんをもて仏身ぶっしんそこない、諸宗しょしゅうやぶり、かくのごとおもつみつくりて、一念懺悔いちねんさんげこころもなからん、そのつみによりて、無間地獄むけんじごくちて、おおくのこうおくりてくべからんものおわりのときに、善知識ぜんちしきすすめによりて、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ十声とこえとなうるに、一声いっしょうおのおの八十億劫はちじゅうおっこうあいだ生死しょうじにめぐるべきつみめっして往生おうじょうす」とかれてそうろうめれば、「さほどの罪人ざいにんだにもただ十声一声とこえひとこえ念仏ねんぶつにて往生おうじょうは、しそうらえ。まことにほとけ本願ほんがんならでは、いかでかさる事候ことそうろうべき」とおぼそうろう

〔『観無量寿経』には、〕「五逆罪といって、この生涯で父を殺し、母を殺し、〔覚りを開いた仏弟子を殺し、〕悪意をもって仏の身体を傷つけ、諸宗の和を乱すという、このような重い罪を犯しながら、少しの懺悔の心もなく、その罪によって無間地獄に堕ちて、非常に長い間、苦を受けるはずの者が、命の終わる時に、善知識の勧めによって、南無阿弥陀仏と十声称えると、一声ひとこえごとに八十億劫もの長い間、迷いの境涯を輪廻する原因となる罪を滅して往生する」と説かれていますので、「それほどの罪人でさえも、ただ十声一声の念仏で往生することが出来る。本当に阿弥陀仏の本願〔の力〕によるのでなければ、どうしてこのようなことがあり得ようか」と思われます。

※五逆罪…往生す=『観無量寿経』下品下生(『浄全』一・五〇頁)。
※説かれて候うめれば=説かれているようですから。ひかえめに言う婉曲表現。