※月刊『知恩』令和2年7月号~9月号掲載
「ようこそお参りくださいました。今日もお経配信を始めます」
皆さん「YouTube」という動画投稿サイトをご存知ですか?冒頭の言葉は、毎夕YouTube での生配信始まりの挨拶です。今春から始めた「午後6時(日本時間)からのお経配信」は3カ月が経過し、おかげさまでリアルタイムの参加者は平均80人前後になります。
なぜ、配信を始めたのか?
実は、以前から「お経の生配信」を考えていました。一人1台のスマホ時代。それを活用し、仏教に触れる機会を増やしたいと考える中で、各国の仏教徒の姿が参考になりました。
私は、福井県の善導院に生まれ、日本滞在時は神戸の安養寺にいます。1年の半分弱は、インド、ブッダガヤで過ごし、12年目になります。ブッダガヤでは「仏心寺」というお寺に滞在し、教育支援、病気等の緊急支援等をしており、各国の仏教徒と交流する機会も多々あります。国や宗派を代表するお寺が多く存在するブッダガヤ。ある意味、各国仏教界の最新事情を垣間見られる場所です。

マレーシアからの団体参拝
大半の僧侶はインターネット上で、日々の法要や法話を配信しています。私が最近経験したお勤めは、台湾にいる施主が、お布施を銀行送金。僧侶の読経に施主は、Line のビデオ機能で参加。その方は妹の供養の読経をお願いし、スマホ越しに涙を流して手を合わせていました。この経験からネット活用を考えましたが、様々な不安から踏み出せずにいました。そこに今回のコロナウイルス蔓延でした。
世界を巻き込む騒動で、生活スタイルは一変、不安や悩みに直面しました。僧侶として、何ができるのか。悩んでいた時、この言葉が浮かびました。「今祈らないで、いつ祈る」 この想いを確実にしたのが、台湾の友人との電話でした。友人は経営者で、コロナの影響で仕事が無い状態でしたが、電話越しに「リンポチェ(高僧)が日々お経を唱えてくれているからNo problem !(問題ない!)」と明るく発した言葉に、ハッと気付かされました。友人は、僧侶がお経を唱えていることに心の安心感を得ていたのです。
今回の騒動は、経済的な問題と共に「心の問題」が取り上げられています。見えないウイルス、外に出られない不安、ストレス。実際、誰かに感染させないため、感染する怖さから自粛する中で、疲れやストレスにより、優しさや不安な気持ちが攻撃的な姿勢に変わってしまった人も多くいました。
でも、お経の場に加わって、 ホッと心を休める時間ができるかもしれない。同じ想いを持つ者同士集まることで、心に安心感が得られるかも…と考え、生配信を決意しました。録画の法話や読経にしなかったのは、生配信ならば場所は離れていても、祈りを強く体感できるのでは、と考えたからです。
「祈りでコロナを無くすことはできないが、祈りでストレスや不安を無くすことはできる」
では、午後6時のお経配信でお会いしましょう!(第1回終わり)

YouTubeの配信画面
「念仏を修せんがところは、皆これ我が遺跡なるべし」
法然上人のお言葉です。動画投稿サイト「YouTube」を通すことで、年齢性別問わず、自宅だけでなく電車や車の中…、いつでも仏教に触れることができ、念仏の声が聞こえる時代になりました。
「毎日・同時刻・生配信」
生配信をするにあたり「毎日・同じ時間・生配信」の三つを軸に決めました。この時間なら、あの場所に行けば、あのお坊さんがお勤めをしていて、交流できるという安心感を抱いてもらうためです。夕方の時間帯を選んだのは、昼の終りにホッとできて、自分を見直す時間にしてほしいとの想いからです。
皆さんも、時間がある時、疲れた時、嫌なことがあった時、「あのお店あの人に会いに行こう。話を聞いてもらおう」と思う場所や経験があるのではないでしょうか。それがインターネット上にあってもいいと思うんです。もちろん、毎日参加できないこともあります。でもYouTube だと動画が残っており、自由に参加できます。実際、平日は配信後の動画でお参りしているが、土日は仕事が休みなので「生配信の参拝が楽しみ」という方もいます。
配信は「雑談→日常勤行→雑談」の順番で進み、法話ではなく、雑談・会話することを大切にしています。以前、滞日約2年のブータン人僧侶に「日本のお坊さんは、ティーチング(法話)が多い。トーキング(会話)をもっとしなさい」と言われた言葉が心に残っており、生配信のチャット機能を活用し、参加者とのやりとりをする中で、ただ会話するだけでなく、会話の節々に仏教的なものの見方、考え方を散りばめることで、何かの気づきを得てもらおうと意識しています。配信の最後には必ず、医療従事者、日々の生活を支えてくれている人たちへの感謝の気持ちを伝え、参加者にも感謝の気持ちを意識してもらうことを心がけています。
配信する上で特に重視したのは「音」で、お経の声と木魚用に2本のマイクを用意しました。私が出会った人から「チベット仏教の重低音が素晴らしくてチベット仏教を学び始めました。お寺の聲明の声に感動して、仏教に興味を持ちました」という声を耳にしたからです。

撮影機材
法然上人在世にも、「鈴虫・松虫」がお経の声に魅了され、出家した話があるように、お経の声・響きは大変重要であり、そこには心を引きつける、また癒す力があると信じています。動画と共にリアルタイムで音を届けることができるようになった今だからこそ、お経の声・響きをしっかりとお伝えしたい。遠く離れていても「同じ時間に、同じお経を、一緒に唱える」という共有体験は、コロナ禍の不安な日々に安心感を与えてくれます。
それでは、午後6時からのお経配信でお会いしましょう!(第2回終わり)
「ひとは信仰によって激流を渡る」
お釈迦様のお言葉です。新型コロナウイルスや自然災害。不安や恐怖が激流のように押しよせ続けている今年度、私の心の支えは、お釈迦様の教えであり、法然上人が示された道です。「毎日お経配信」を始めて約5カ月。参拝者の声をまとめてみました。
10代から90代まで幅広く
参拝者は、毎日リアルタイムで70人から80人、年齢層も10代の大学生から90代まで幅広く、多くは直接面識がない方々です。また、米国やカナダ、ミャンマー、タイ、インドなど海外からも参拝があり、半数以上の方がほぼ毎日のように参拝されています。
ある人は一人スマホから、ある人はリビングのテレビから夫婦や家族、友人と一緒に。仕事帰りの車や電車の中、駅のホーム、仕事の休憩時間に仕事場から…。平日は動画で、休日はリアルタイムでの参拝と、参拝の形もいろいろです。
皆さんの声はさまざまです。一番多いのは、お経を唱え、耳にすることで、先の見えない不安や恐怖、日常生活や職場で感じるストレスなどからリセットできる時間になっているという声です。コロナ禍の時代への不安を色濃く反映しています。他にも、病気や手術、身近な人の死などで心が動揺しているなか、お参りの時間が心の支えになっている、と。海外在住者は、兄弟の葬儀や法事、墓参に帰れないので、せめてこの場所でとの想いで手を合わせておられます。何よりありがたいのは、仏教という道標に出会えたとの声です。
多彩な声がチャット(おしゃべり)欄に届きますが、チャット欄で参拝者同士の交流が自然と始まっています。誕生日や新しい命の誕生など喜ばしい出来事や、身内や友人の死などの悲しい出来事を共有し、共に喜び、共に悲しむ場となり、そのことが多くの人が毎日参加する理由にもなっています。画面を通してでも、仏教・お寺がコミュニティの中心となり、会うことが制限される今、実際の距離は遠くても、同じ時間に共にお経を唱え、同じ想いを共有することが心の距離を縮め、心の平穏につながるのだと改めて実感しました。
とにかく「祈りたい」「心の平穏につながれば」と想い、始めた「毎日お経配信」。今では、お経を唱える時間が多くの方の心の拠り所となりつつあります。
「祈りでコロナウイルスはなくならないが、祈りで恐怖や不安、ストレスを無くすことはできる」。これからも、一人でも多くの方が「祈り」=「念仏」で安心感を得られるよう、まずは私自身が法然上人の示されたお念仏の道を歩みます。連載は終わりますが、Youtube 上では皆さんのご参拝を心よりお待ちしています。午後6時からのお経配信でお会いしましょう!
清水良将上人の動画はこちらからご覧ください。
清水良将(しみず りょうしょう)
1984年 福井県・南越前町の善導院に生まれる。佛教大学仏教学科卒業。現在は、兵庫教区の安養寺所属。インド・ブッダガヤの仏心寺と関わり、12年前から1 年の半分近くを現地滞在し、修行のかたわら支援活動に従事中。『知恩』誌で2019年3 月までインドの風物を活写する「良将上人のインド紀行」などを連載。
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