東京教区観智院住職 土屋 正道(つちや しょうどう)
世界をつなぐお念仏の声

東京教区観智院住職
土屋正道
東京都港区の観智院住職の土屋正道さん(56)は数多くの念仏会に精力的にたずさわる。自坊では毎月4日と19日に別時念仏会、第2金曜日には「夕念仏の会」。鎌倉、長野、伊勢などでも定期的に念仏会を行う。
10年前からは増上寺で24時間の不断念仏会「東京の中心で仏の名を呼ぶ」を開催(3年前からは京都でも実施)。この念仏会はインターネットでリアルタイムに配信して世界中をつなぐ仕組みになっており、10回目となった昨年はニューヨーク、ハワイ、パリなど8か国22会場からの念仏中継も行われた。
土屋さんには奇をてらって試みている様子はない。むしろ、法然上人の教えを受け継ごうという強い想いを感じる。
「世界にはいま70億人を超える人々が住み、戦争、貧困、難民など数々の問題を抱えています。法然上人がもし現代に生まれていたら、国籍を超えてお念仏を一緒に称え万民救済を願ったに違いありません。それに、『毎日お念仏を称えましょう。お念仏は誰にでもできる易しい行ですから』と他人に説いているのに、自分一人だとなかなか実践できないものですから」

平成27年5月30~31日、増上寺で行われた不断念仏会。会場には200名以上が参加した。スクリーンに映るのは世界各国の人々がともにお念仏する様子
仏さまが離しゃしませんから
観智院には念仏道場としての伝統がある。
祖父にあたる土屋観道さん(1887~1969)が「仏さまの願いにかなった生き方を実現し生きがいのある人生を送る」という「真生主義」をかかげて念仏行に励んで以来、観智院は多くの信者さんとお念仏の縁を結んできた。だから、土屋正道さんは「物心ついたころから、お念仏のなかで人格形成がされていく様子を見てきました」と幼少期を振り返る。しかし、「たまたまお念仏の家に生まれ、お念仏は自分の力で積み重ねる行だと思い込んでいました」と語る。
「大学の時、僧侶となる修行をしていた時のことです。お念仏に励もうと志しましたが、すぐにお念仏から心が離れていく自分がいました。悩んだ末にある信者さんに『信仰心が後退したように思う』と相談したところ、『大丈夫ですよ。あなたが忘れても仏さまが離しゃしませんから』と教えられ全身に衝撃が走りました。善導大師が『彼の仏の本願に順ずるが故に』とおっしゃったとおり、仏さまが私たちを救おうと願っているから、たった一声の『南無阿弥陀仏』でも救われるんですね。自分の力でお念仏を積み重ねるのではなかったんだ、とようやくわかりました」
同信の人々と歩む日々

多聞院を改装してオープンした「漫画図書館」。開館時間は月曜日の午後6時~8時と土曜日の午前10時~17時。入場無料。法事などの都合で臨時休館の場合あり
「法然上人は『選択本願念仏集』に、『念仏の行、水月を感じて昇降をえたり』とおっしゃっておられます。水に映るお月さまのように、念仏三昧によって、私たちの心と仏さまの心は一つになれると。その境地に少しでも近づきたいですね」
そう語ってお念仏を続ける土屋さんをたよって訪ねてくる人は多い。僧侶を志す徒弟も11人を数えた。諸澤 正俊(もろさわ しょうしゅん)さん(66)もその一人である。
諸澤さんは増上寺で「自死遺族追悼法要」に遺族として参加したのが仏教との出合いだった。身内を自死で失った苦しみを語ったとき、僧侶は涙を浮かべながら聞いてくれた。「心の痛みをしっかりと受け止めるには僧侶になるのが一番だと思って、仏門をたたきました。謙虚さを大切にして、まずは自分が変われるようにとお念仏に励んでいます」と語る。
土屋さんは現在、東京教区の教化団長もつとめ、今年3月5日(土)12〜19時に増上寺にて「浄土宗東京教区別時念仏会 お念仏に出逢う一日 おてつぎ運動推進大会」を開催する。おてつぎ運動50周年を記念する事業となるだろう。また、住職を兼務する多聞院では仏教の入り口になればと願い、昨年10月に「漫画図書館」をオープンし、仏教マンガを読むスペースを無償で提供し始めた。多忙を極める土屋さんの活動をそばで支えるのは、お念仏の縁でつながっている諸澤さんたちである。
「お念仏の功徳は『不求自得(ふぐじとく)』、つまり求めずして自ずから得られていくものです。お念仏を称えるなかに、阿弥陀さまのお守りを受け、育てていただくのです」
土屋さんは同信の人々とともにあたたかい念仏の声を世界各地に響かせていく。
(取材・文 池口龍法)
プロフィール
土屋 正道(つちや しょうどう)
昭和34年5月19日生まれ。学習院大学文学部史学科、大正大学仏教学部浄土学コース修士課程卒業。土屋光道に師事、第23世住職となる。浄土宗東京教区教化団長、総本山知恩院布教師、大本山増上寺布教師。 鎌倉大仏月夜の別時念仏会、1000礼拝行など念仏体験の行事を開催する。24時間不断念仏会ではインターネット配信で、世界の念仏道友との交流を目指している。