華頂特集記事Kacho

2018年9月

『反省の心を、
社会福祉のインフラに』

身内の介護──超高齢化社会が抱える深刻な問題の一つである。
いつ終わるともしれない介護の日々を、少しでもやすらかに過ごすために、お寺になにができるのか。
その答えを探し求めて、東京教区香念寺では約2年前からお寺を開いている。

介護の苦しみを分かち合う

「亡くなるまでは丁寧に対応してくれる。でも亡くなったら電話してもとりあってもらえない。それが医療施設、介護施設です。でも、亡くなったらすべて終わるわけではなくて、亡くなった日から、長年連れ添った家族が居ない現実が始まるんです」

7月17日に香念寺(東京都葛飾区)で行われた第11回「介護者の心のやすらぎカフェ」(奇数月第3火曜開催。以下、カフェ)は、“介護ロス”の空しさを打ち明けた言葉が発端となって、看取ったあとのグリーフケアが話題の中心となった。住職の下村達郎さん(36)は、聞き役として言葉のひとつひとつを手元のノートに書き留めていく。地域包括支援センターなど介護の専門家も同席し、ときおり適確なアドバイスが提示される。ざっくばらんに介護の苦しみを語り合う2時間は、あっという間に過ぎた。

この日の参加者は過去最高の19名(スタッフ含む)。檀信徒ももちろんいるが、地域の人もいれば、新聞などで知ってわざわざ遠方から訪ねてきた人もいた。2か月に1度のカフェの開催を「心待ちにしていました」と語る人もいる。香念寺は、地域の社会福祉の場として、人々に温かいつながりをもたらし、精神的な拠りどころとなっている。

「介護者サポーター入門講座」

さまざまな形で介護者を支える。「介護者サポーター入門講座」(今年2月3日、香念寺)は、
一人ひとりが「介護者サポーター」となるための学びの場だ

カフェを開くまでの葛藤

一般家庭に生まれた下村さんは、6歳のとき、母方の祖父が住職をつとめる香念寺に住むようになった。お寺の手伝いをするのは大法要のときぐらいだったが、檀信徒からは「跡取り」として期待された。そして、高校3年生のとき、祖父が風呂で急逝。「いずれお寺をやるんだろうな」との予感はあったが、その日の到来はあまりに唐突だった。それでも、「せっかくなら日常生活にアプローチできる学問を習得したい」と前向きにとらえ、東京大学医学部健康科学看護学科に進み、在学中に加行を受けて僧侶資格も取得した。

平成19年、24歳で香念寺の住職に就任した。とはいえ、仏門で生きていくことへの気持ちの整理が、完全についたわけではなかった。四六時中お寺にいると、力や時間を持て余している感じがして、専門学校や語学学校に通った。「人とのつながりが欲しくてお寺を抜け出していたんでしょうね」と苦しかった時期を振り返る。

カフェを開く縁となったのは、浄土宗総合研究所の「現代における老いと仏教」研究プロジェクトに加わったことだった。同プロジェクト研究主務で宮城教区雲上寺副住職の東海林良昌さん(48)は、2012年に「介護者サポートネットワーク ケアむすび」を設立し、宮城県仙台市と塩竈市を拠点に介護者のケアを行ってきた。

東海林さんの奨めもあって、平成28年11月、カフェ活動をスタートした。下村さんは「お寺を開くのは負担にならないだろうか」「介護者のケアが自分につとまるだろうか」と不安だったが、東海林さんから「2か月に1日だけでも、参加者にとってお寺が“日常の一部”となれば、そのお寺は開かれている。無理のない範囲でやればいい」とアドバイスをもらったとき、肩の力が抜けた。

カフェを始めてもうすぐ2年。悩みを聞くことにも慣れ、自然体でお寺を開き続けている。かつてお寺の外に求めてもがいていた“つながり”は、いまやお寺のなかに広がっている。

映画「まなざし」の上映会と監督による解説

「老い」と「死」をテーマにした映画「まなざし」の上映会と監督による解説
(今年1月19日、亀有地区センター)

お念仏と社会福祉

今年1月、浄土宗が東京教区の寺院に、「社会福祉・地域貢献活動に関心を持っているか、また実践しているか」についてアンケート調査をしたところ、多くの寺院から好意的な回答があった。介護者カフェの実施についても前向きなお寺があったという。

この結果を受け、下村さんは各寺院と直接コンタクトをとり、介護者カフェの普及に精力的に励み始めている。西東京市の浄心寺も候補寺院の一つである。住職の榎本雄心さん(74)は、去る7月の香念寺でのカフェに足を運んで実際の様子を学び、「私の近くにも悩んでいる人はいるはずだから、ぜひ介護者カフェを開きたい」と意気込んだ。

下村さんは「年内に5か寺」を目標に掲げる。そして、「いずれは100か寺」と願う。「お坊さんとの相性もあるでしょうし、近くのお寺に行くのが嫌な人もいるでしょう。いろんな地域で、いろんな曜日や時間帯に、いろんなお坊さんと話せるような仕組みづくりをしたいですね。日本はコンビニよりもお寺の方が多いですから、お寺が社会インフラになっていけば、この国の社会福祉の形が変わるはず」と、未来の社会の形を描く。

そして、浄土宗の教えが福祉のために欠かせないことも指摘した。

「自分自身も至らない身だと認めていくのが、浄土宗の考え方の基本です。いわゆる『愚者の自覚』です。でも、介護は出口が見えない日々ですから、つい反省の心など忘れて、イライラが募っていくものです。お寺に来て日常を取り戻し、平常心に帰る仕組みが求められていると思います。お互いにゆるし合い、拝み合う心を伝えていくという役割を、浄土宗の僧侶として果たしていきたいですね」

(取材・文 池口 龍法)

介護者の心のやすらぎカフェ

会場 香念寺客殿(東京都葛飾区亀有2丁目40–3)
日時 奇数月第3火曜日(原則)
次回は平成30年9月18日(火)に開催
午後2時30分〜4時30分

あなたのお寺でも介護者カフェを開きませんか?

専門的な知識は要りません。聞き役に徹すれば、自然とお寺は開かれます。
その他・ノウハウは可能なかぎりお伝えさせていただきます。まずは気軽にお問合せください。
問合せ 香念寺 konenji378@gmail.com

プロフィール

下村 達郎(しもむら たつろう)

昭和57年3月10日、東京都生まれ。東京大学医学部健康科学看護学科卒業後、平成19年から香念寺住職。平成28年11月に「亀有介護者サポーターの会」結成。「カフェ」は隔月(奇数月)で原則第3火曜日に開催。