華頂特集記事Kacho

2019年1月

カレーから広がる仏縁

 

仏教発祥の地インドで生まれ、今や日本人の国民食と
なったカレー。長崎教区長安寺の吉田武士さん(34)は、
カレーを通して様々な布教活動を行っている。

カレーでみんなが笑顔に

 11月26日の夕方、長崎県大村市の市民交流プラザで「いきなりカレー」というイベントが行われた。その名の通り、開催日は数日前にいきなりSNS や掲示板で告知され、予約せずに、誰でも無料で出来たてのカレーが食べられる。調理から参加することもでき、盛り付けや後片付けまですべてセルフなのが「いきなりカレー」の掟。自称「カレー坊主」の吉田さんが中心となり、毎月1回のペースで2年以上続けている。この日は地元で採れた白菜やほうれん草など野菜がたっぷり入ったカレーに仕上がった。匂いに食欲をそそられ、近所の子どもたちや調理室の近くで自習していた高校生らが次々と集まり、参加者は68名となった。

誰でも気軽に参加できる「いきなりカレー」

 カレーをみんなで作って食べることで、笑顔溢れる空間へと変わる。「今日で何回目?」とテーブルを移動しながら参加者に気さくに話しかける吉田さん。5回目の参加だという男子高校生に「花まつりって知ってる?」と投げかけた。首をかしげる様子を見て「4月8日はお釈迦さまの誕生日で、仏教版のクリスマスなんだよ」と優しく答えた。仏教に結び付くような会話も自然と生まれる。「進学で地元を離れた子が1年後に再び会いに来てくれた時は嬉しかったです。仏教は縁の教えであり、すべては関係性によって成り立っているように、カレーを通して人との繋がりができ、楽しいと体感してもらえれば」と話す。

花まつりを盛り上げたい

 クリスマスと比べて、認知度が低い花まつり。仏教に対して明るいイメージを持ってもらうため、カレーを食べて、まずは花まつりを盛り上げたいと考えた。カレーに着目した理由について「仏教もカレーも元々はインドで生まれたものです。仏教が日本で独自に発展した部分はカレーと似ていて、家の宗旨があるように、カレーには家庭の味があり、様々な出会いを楽しむことができます」と説明する。昨年は大村市中央商店街の花まつりに出向き、次の日に地域の方々とカレーを食べて交流を図った。「全国のお寺の花まつりでカレーを食べる文化ができれば」と願って活動を続けているが、準備や衛生面など今後の課題もある。

大村市中央商店街で行われた花まつり(2018年4月8日)

 吉田さんがイベントの際に着ている黄色いエプロンは、仏教とカレーを掛け合わせ、質やデザインにこだわって作成した。普段の生活に使えるエプロンで仏教を身近に感じてもらうのが狙いで、僧侶が身にまとう袈裟をモチーフにした。お釈迦さまの時代から続く草木染めで、カレーの色を表現。お念仏のように古くから伝承されてきた教えや想いを学ぶことが必要だと考え、伝統技法を取り入れた。

 また、昨年11月10に横浜で開かれた仏教世界大会でカレーをアピールしたいと、全日本仏教青年会から依頼があり、有志を集い「全国カレー好き僧侶の会」を結成。現在、会員は8名で吉田さんはその代表を務めている。「カレーで仏教を盛り上げよう」という思いで「ほとけさまのやさしい精進カレー」を開発した。肉や卵、乳製品、白砂糖、化学調味料などは一切使っていない。スパイスや野菜の旨味、昆布や味噌などの日本の伝統調味料で作った優しい味が口の中でまろやかに広がる。大好評につき、今後は4月8日の花まつりに向けて追加で製造し、災害時の備蓄品として活用することも検討しているという。

「全国カレー好き僧侶の会」が考案した精進カレー

僧侶として生きる決意

 

 小学生から習っていた空手の師匠が、吉田さんが現在奉仕している長崎教区長安寺の住職であり、大学4回生の時に進路相談をすると「お坊さんにならないか?」と言われ、在家から仏門の道へ進むことを決めた。全く馴染みのなかったお経や作法を覚えるよりも苦労したのは、檀家さんとの接し方だった。深刻な悩みを聞くことも多く、死に関わる辛い状況に直面すると、相手に掛ける言葉が見つからなかった。

 こんな自分に何ができるのかと悩んでいた6年前、「仏教やお念仏の素晴らしさを広めていきたい」と布教活動を始めるきっかけとなる出来事が起こった。実家の米屋が廃業に追い込まれ、周囲に迷惑を掛けた父親を責めたが、腑に落ちる理由は見つからず、自分自身も苦しい思いをした。その時救われたのが仏教の教えであり、お念仏の有り難さを身に染みて感じた。「人は外側に目を向け、周りを解決させようとすることが多いですが、内側に向けてみると、原因は自分にあることに気づきました。周りから何か言われるのではないかと自分の体裁ばかりを気にして、父親の苦しみに寄り添うことができていませんでした」と当時の心境を語る。今はまず悩んでいる相手の思いをしっかりと受け取り、聴くことを大切にし、自分自身で何かしらの「気づき」を得てもらえるような対応を心掛けているという。
 「カレー文化と仏教がカレーの香りのように多くの方に広がってほしい」
 日本人にとって、仏教がより身近な存在となるように、吉田さんは日々お念仏を称えながら、新しい挑戦を続けている。

(取材・文 国松真理