華頂特集記事Kacho

2020年2月

小さな島で
育まれる親子の絆

 長崎県五島列島の北端に位置する小値賀(おぢか)島は、観光施設やコンビニもない人口2400人程の小さな島。小値賀町の大小17の島からなる火山群島の一つで、懐かしい日本の原風景が残る島として平成21年に「日本で最も美しい村」に選ばれている。
 島全体にお寺は6か寺(浄土宗は2か寺)あり、島民の大半が仏教徒で信仰の深い地域である。

お寺で安らぎの時間を

 昨年12月8日、小値賀島の阿弥陀寺にて、九州地方で初めてとなる22校目のサラナ親子教室が開校した。中村奈津子さんは、平成30年度に東京で開かれたインストラクター養成講座で資格を取得し、今回の開校に至った。

 島内には子ども園、小・中・高等学校が1校ずつあり、サラナ親子教室の参加対象になる子どもは35人と限られた数しかいない。奈津子さんは自らこども園でお母さんたち一人一人にチラシを配り、SNSでも情報を発信。保健師や友人の協力もあり、教室への入会申込みは15組、当日は8組の親子が集まった。

みんなで元気よく体操

 「子どもが泣いて困った時に本堂に連れていくと、気持ちが落ち着いて泣き止んでくれます」と、参加者に優しい口調で語り掛ける奈津子さん。住職を務める夫の中村好秀さんは、おつとめの他にもオルガンで歌を演奏したり、赤ちゃんを抱いてあやしたり、教室の運営をサポート。初めてのおつとめで緊張していた子どもたちも、お歌や体操では元気に体を動かし、笑顔でリラックスした様子だった。

 12月8日にお釈迦様が菩提樹の下で悟りを開かれたことにちなみ、テーマ活動では、木の幹の描かれた用紙に子どもたちの手・足型のスタンプを押し、折り紙やペンで飾りつけをして名前のプレートを作った。

親子で協力して名前プレートを作成

この島でできること

 今回参加した安永未央奈さんとあいちゃん(2)親子は、数年前に夫婦で農業をするため福岡から移住してきたという。「普段はお寺に行く機会がなく、仏様のそばでゆっくりと過ごせる時間を有り難く感じました。お寺の堅いイメージが変わりました」と喜んでいた。

 島には昔からの伝統を受け継ぎ漁業や農業、畜産業を営む人が多い中、学校の先生や警察官、消防士など2、3年の任期で移り住む若い世代の夫婦もいる。奈津子さんは、「サラナ親子教室が島に馴染んでもらえるきっかけになれば」と願う。

 「子どもは島の宝」だと考え、島全体で子育て支援に力を入れ、公民館での子育て広場や親子向けのイベントも頻繁に開かれている。サラナ親子教室は、働いているお母さんのことを考慮し、島やお寺の行事と被らない休日に開催する予定だ。「島ならではの自然を生かした活動や郷土料理を作ったり、お寺に来る年配の方と交流したりする機会も作りたいです」と今後の抱負を語る。

小値賀島との出会い

 奈津子さんが初めて小値賀島を訪れたのは大学3回生の夏休みだった。

 「地域づくりを学ぶインターンシップで1か月間、島暮らしを経験する中で、豊かな自然や人の温かさに魅了され、この島がすっかり大好きになっていました」と話す。その時に中村住職と出会い、卒業後、東京での仕事はやりがいがあり、地元の千葉から遠く離れた島に行くことには悩んだが、「お寺が地域のコミュニティに果たせる役割が大きいことを知って、新たなチャレンジをしたいと希望を持ってお寺に嫁ぎました」

 一般家庭からお寺に嫁いで10年。6年程前には夫が先代住職の後を継いだ。寺庭婦人として、また3人の子どもの母親として、忙しい日々を送っている。保育士の資格を持ち、子どもが好きな奈津子さんにとって、この島で子育て支援に関わることが長年の夢だったという。

支え合って生きる

 島では、魚や農作物などの自然の恵みをみんなで分け合う「おすそわけ」の文化があり、お互い支え合って生きている。人が集まり、コミュニケーションを重ねることで生まれる地域のコミュニティ。小さな島だからこそお寺の役割も大きい。中村住職は、「人が少ないことを理由に何もやらないのではなく、まずは始めてみることが大切だと感じました。これからも僧侶として島のためにできることを考えていきたいです」と話した。

 信仰の場であるだけでなく、小さな子どもたちが親子の絆を育み、巣立った親子が戻って来ることのできる特別な空間として、これからも阿弥陀寺は島にとって欠かせない存在であり続けるだろう。

阿弥陀寺の本堂(左)と鐘楼(右)

(取材・文 田口真理)

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