華頂特集記事Kacho

2020年9月号

「良いつながり」の地域社会を
目指して

 

 看板に書かれた『訪問看護ステーション さっとさんが願生寺』の文字。ここは大阪教区願生寺が、訪問看護事業を手掛ける㈱ナースケアと提携して立ち上げた、全国でも珍しい訪問看護ステーションである。通常の訪問看護と違うのは、看護師のほかに、願生寺住職の大河内大博さん(41)がチャプレンとして携わっていることだ。

 

病院から在宅へ

 大河内さんは学生時代から、末期がんの患者に寄り添うビハーラ活動や、大切な人を亡くし悲嘆に暮れる人を支援するグリーフケアなどに取り組んできた。2017年4月には在宅医療を手掛ける医療法人のチャプレンに着任。大阪府内をかけまわり、患者のもとで傾聴を行った。ところが8月に先代住職だった父の末期がんが判明。わずか1ヵ月で見送り、願生寺の住職を引き継いだ。「しばらくは住職の仕事を覚えるのに必死でした。チャプレンとして戻ってこないかという声もいただきましたが、住職の勤めが忙しく以前のようには動けないので、お寺の近くに訪問看護ステーションを立ち上げることにしたんです」

 活動理念も一から考え、今年5月、願生寺近くの駅前に『さっとさんが願生寺』をオープン。医療チームのパートナーとして、地域をひたすら動きまわる。チャプレンとは宗教施設以外でも活動し、心のケアをする宗教者のこと。欧米ではその重要性が認知され専門職もあるが、日本ではあまり知られておらず、数も少ない。訪問看護は限られた時間の中で動く必要があるため、看護や医療処置に追われると、患者の声を十分に聞くことができない。そこで看護師の仕事のあと、チャプレンと交代する。そして時間の許す限り、ゆっくりと患者の話に耳を傾ける。

 『さっとさんが願生寺』で看護師を務める今岡潤子さん(46)は「病気というのは、その人の考え方や心持ちを変えることで改善することがあります。それに自分で気付けるかどうかが重要です。しっかりと話を聞く中で、患者さん自身に気付きを与えてくれるのがチャプレンだと思います」と大河内さんの存在に期待する。

ミーティングを行う大河内上人

患者とともに歩む

 『さっとさんが願生寺』を立ち上げた翌月、大河内さんは、がんであった母を自宅で看取った。「つらさはありますが、安らかに、心落ち着いて自宅で送ることができてよかったと思います。家族で看取れるというのは幸せなことです。母も自分の最期を受け入れたことで、葬儀のことも含めて全て話すことができました」

 2025年には、国民の4人に1人が75歳以上という超高齢社会に突入すると言われている。病床が不足し、否応なく在宅医療が中心になっていくだろう。「人生の最期は家で迎えたい、家族に看取られたいと望む人がいるなら、その最期が、看護の目の行き届かないものになってはいけません。お寺での訪問看護がひとつふたつと広がっていき、お寺が地域の1つの拠点となるような社会を作り上げていきたい」と意気込む。

 患者が死に対する不安をもらせば、じっくりと話を聞いてその不安に寄り添う。やりたいことがあれば、実現するために共に考え歩んでいく。「チャプレンとは、人生の中で出会って、伴走していくものだと考えています」と大河内さん。「大きな決断をしなければならない時、表に出てくるのは選択した結果ですが、その裏には、決断に至るまでの悩み・苦しみ・捨てざるを得なかったことがたくさんあります。その過程を共にし、私自身も大切にしていく。その方が進んだ道の証人になっていくのもチャプレンの大切な役割です」

地域が共生する社会

 大河内さんは訪問看護の他にも、子ども食堂開催のための支援や、大学と協力して、行動経済学の理論から地域の交通安全を考える活動をしている。新型コロナウイルスの影響で今年は実現できなかったが、境内で花まつりカフェを開催するための計画もできているそうだ。

 『さっとさんが』とはサンスクリット語で『良いつながり』という意味。「私の活動を見た地域の人たちが、何かやりたい企画をお寺に持ち込んでくれるようになれば、自然と人が集まり、新たな縁が生まれる場になると思います。お寺が中心となって地域がつながり、共生の社会になっていくことを目指すのが『さっとさんが』です」

(取材・文 關 真章)