華頂特集記事Kacho

2020年11月号

おかげさまの心で結ぶ
~ひとさじの会と在日ベトナム寺院

 9月28日、コロナ禍以前の活気を取り戻しつつある東京上野駅。高層ビルに囲まれた薄暗い通路で、路上生活者にお弁当を配って回る「ひとさじの会」の活動に同行した。

少人数でも続く活動

 日雇い労働者が多く住む東京都山谷地区で生まれ育った光照院住職の吉水岳彦さん(41)は、路上生活者の支援団体と協力して2008年に無縁仏を供養する「結の墓」を建て、翌年に社会慈業団体「ひとさじの会」を立ち上げた。月2回の配食夜回り、葬送支援、浄土宗寺院を中心とした施米運動を3本柱として活動している。

 午後3時、準備のため吉水さんとボランティア3名が光照院のこども極楽堂に集まった。以前は30人ほどで行っていたが、7月からボランティアの募集を停止。「コロナの前はみんなでおにぎりを握って、すごく賑やかだった。今は少人数でやるしかないね」とボランティアの女性が残念そうに話しながら、200人分のお弁当とお菓子、マスクが流れ作業で一人分ずつ袋に詰め込まれた。今年1月の厚生労働省の調査によると、路上生活者は全国で3、992人。その多くは仕事を求めて大都市に集中するため、大阪府1、038人、次いで東京都が889人だった。ひとさじの会では複数の団体と連携しながら生活困窮者への支援を行っている。

 平常時は配食の前に光照院の本堂で法要が行われるが、密になることを避けるため外で同称十念。午後8時から僧侶5名とボランティア1名でグループに分かれ、隅田川沿い・浅草周辺・上野駅周辺へ向かった。

お弁当、お菓子、マスクが入った袋

同じ目線で同じ景色を

 昼は観光客で賑わう上野公園も、夜はすっかり暗くなり、街灯の明かりを頼りに路上生活者を探し歩く。足早に通り過ぎていく人々の傍らで、ベンチで横になっていた男性に「こんばんは、ひとさじの会です。お弁当持ってきました」と吉水さんが腰を落として優しく声をかける。男性は起き上がって「ああ、ありがとね」と遠慮がちに受け取った。お弁当を渡して合掌すると、自然と相手も手を合わせて「また次回ね」と約束を交わす。10年以上続く活動だが、次に会う約束の積み重ねで今日まで続けてこられた。

 吉水さんが来るのを待っていたという男性は、こちらにも気さくに挨拶をしてくれた。「あの人は自分のことで他人に迷惑をかけたくないから生活保護は受けないんだって」と吉水さん。また、仕事を解雇され、家からも追い出されて自殺を考えた人がなんとか思いとどまって路上生活となることもあるという。ひとさじの会は配食夜回り活動を通して対話を重ね、今の生活が辛いと言われたら近くの支援団体につなげている。

 体が弱く弁当を取りに来られない人のために代わりに来たという男性は、その場で近況を話してくれた。「3か月前にコロナで解雇されて、足をケガしてたから路上に出てもずっと動けなかった。治るまでの間ベンチでぼーっと座ってると、毎日一人、二人と増えていくんだよね。そうすると自分と同じでご飯を食べてない人がわかるから持って行ってあげようと思って」。その男性は、働くことで支援してもらった人に恩返しがしたいと明るく語った。

在日ベトナム人との出会い

 コロナ禍以前は、月に1回在日ベトナム人もひとさじの会のボランティアに参加していた。ベトナム料理の揚げ春巻きを600個用意し、冬には寝袋を寄付。「自分たちも生活が大変なのに、日本の路上生活者のために尽力してくれた」と吉水さん。

 在日ベトナム人を取り巻く状況は急速に悪化している。政府の方針で約42万人が留学生・技能実習生として来日したが、そのうち約2万人が生活に困窮している。劣悪な環境で望まない仕事を強いられたり、かつて路上生活者が請け負っていた過酷な労働の果てに若くして命を落としたりする人も少なくない。以前からひとさじの会の活動に協力していた、在日ベトナム仏教信者会会長で僧侶のティック・タム・チーさんは、埼玉県のベトナム寺院大恩寺を拠点として葬儀、生活、医療などあらゆる面で在日ベトナム人の支援を行っている。

 タム・チーさんから話を聞いた吉水さんは9月までに10トンの米をひとさじの会から送ったが、継続的に支援するため「在日ベトナム人への緊急施米支縁プロジェクト」を立ち上げた。取材時もコロナで仕事を解雇されるなどして居場所を失った87名を一時保護していたタム・チーさんは、生活支援と心のケアの大切さを訴えた。「みんな希望を持って日本へ来たのに、傷付いてつらい日々を過ごしました。でもお寺へ来るとみんな安心する。仏さまが上からお力をくださって、勇気が湧いてくる。ここで励まして、少しでもいいものをもって家族のところへ帰ってもらいたいんです」

寄付で集まったお米は全国に届けられる(大恩寺)

 コロナ禍という誰もが厳しい状況に置かれた時ほど、弱い立場の人が支援のネットワークからこぼれ落ちてしまう。生活困窮者と同じ目線に立ち、おかげさまの心で支え合う彼らの姿から学ぶことは多い。

◆寄付について詳しくはひとさじの会ホームページ内「在日ベトナム人への緊急施米支縁プロジェクト」をご覧ください。

ひとさじの会