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2022年4月号

「これから」”生かされる喜びはどこにあるか”

命というのは一つしかない

 「これから」の上に「人生は」と書こうと思ってたんです。「人生は」と書いたら、生きている人のことばかりに感じます。3年ほど前には、宇治の大きな会社が放火され、30人以上が殺され、ついこの間は大阪市北区のビル火災で25人が亡くなりました。亡くなられた方一人一人、次はどこへ行こうとか、それが済んだらあの仕事をしないといけないとか、みんなそれぞれに思いがあったと思います。それが「これから」なんです。

 亡くなった人たちの「これから」を皆さんは考えたことがありますか?何もしてあげられない、何も知らない人ですが、いろんな心の思いがあるということを感じました。命というのは一つしかないから、本当に大切です。

 人間にはいろんな出会いがあり、そしてまた別れもあるのですが、こうして出会わせてもらっています。いま皆さんと一緒に生かしてもらっている、生かされている喜びを有難いと思い生きています。その喜びが、明日に続くのです。ただ単に生きている人は誰もいません。

 みんなそれぞれにお仕事を持ち、人の役に立つために生きています。また、こうして元気な顔を見たら「お元気ですね」と顔を合わせてものを言うことが大事です。これが生かされている証拠です。

感謝がないと駄目です

 こんな言葉があります。

 「こんなあなたは嫌われ者 ちょっと気になる五十音」

 五十音ありますが、少しだけ読んでみます。

あ 当たり前やと喜ばず
い いつもの事やと感謝せず
う 受けしお陰に気も付かず
え 縁を大事と喜ばず
お 恩も忘れて我が事ばかり

 ご飯を作ってもらっていることに感謝せず、自分は働きに行き、家にいる人が作るのが当たり前だと言う人。軽はずみに物事を考えています。やっぱり感謝がないと駄目です。いろんな方からいろんな有難い幸せを頂戴しているんです。

 大阪のある幼稚園に行った時の話です。ちょうど食事の時間でした。園児がずらっと並び、先生が「みんな揃ったね?」と。そしたら「ピーッ」と笛を吹くのです。それでご飯が始まります。「いただきます」がないのです。いろんな方々が穀物などの食材を作り、料理していただいたご飯を食べるのに「ピーッ」は合いません。

 お米もみなすべて勝手にできているのではありません。太陽の光、雨の力、風の力、すべてのものが合わさって作られます。野菜やお魚を取ってきてもらい、それを合わせ、お口に合うように作られたものをいただくおかげでいま生きているのです。

涙のひとつも拭いてあげて

 受験シーズンになると、お寺や神社に人がたくさん来られ、賑わいます。うちの子は一生懸命勉強していますので、どうぞ通してくださいと祈願します。その時期だけお寺や神社に行く人もいます。合格したら、うちの子が勉強したから、神様と仏様のおかげではないと言う人もいます。

 もっと考え方を広く持って、受験すると言ったら一生懸命その子が勉強しないといけないのです。受かるように努力をしないといけません。物事はすべてそうなっています。ずぼらしたらずぼらしたように、ちゃんと答えは返ってきます。一生懸命やった人は一生懸命やったようにちゃんとご褒美があります。これが人生なんです。

 いくつになったら死ねると思いますか?人間は必ず死にます。二百歳まで生きる人は誰もいません。仏様がお迎えに来てくれるのです。私たちのご先祖様、仏様、観音様やら、いろんな仏様が、長いことよう頑張ったね、よう働いたねと言ってお迎えに来てくれるから、亡くなるときにお迎えが来るといいます。

 私、死に行きますと言う人はいないです。おじいちゃん、おばあちゃんとお別れするときに、長いことようがんばってくれはった、ありがとうと言って感謝し、涙のひとつも拭いてあげて、そして往生するのです。これがいちばん大事なことです。そういう往生の仕方をしないといけません。

 それは何か?日頃の行いです。お念仏を申して救われるのです。お念仏の南無阿弥陀仏という一言。それ以外に他の言葉はないのです。今日一日よく生かしていただきありがとうという感謝、これがまた明日にも続きますようにと拝むこの心がいちばん大切だと思います。そうするとどんなことにも感謝ができるのです。感謝がなければ生きられません。

 知恩院のおてつぎ運動のおてつぎとは、手から手へ、人から人へ、心から心へと法然上人のみ教えをつないでいくことです。私たちは単に一人ずつ生きているのではありません。いろんなところで繋がりをいただいて、その繋がりのおかげで生かされています。

 今日一日、私も生きてきたなぁ、明日も頑張らなあかんなぁと思うことが大事です。明日のために、明後日のために、子供らのために、孫のためにといって、どうぞ生き抜いていただきたいと思います。生かされる喜びはそこにあるのです。

※1月8日に開かれた「おてつぎ文化講座」 の要旨を採録しました。

プロフィール

井桁 雄弘(いげた ゆうこう)

昭和9 (1934)年、大阪市生まれ。大阪教区相阪組・大圓寺住職。全日本仏教会理事や大阪府仏教会会長など歴任。平成27(2015) 年に総本山知恩院顧問会会長。同31(2019)年2 月から現職。