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2015年1月

「近江米一升運動」
─東日本大震災被災地支援活動─

滋賀教区浄土宗青年会

永沢応急仮設住宅の人々と滋賀教区浄土宗青年会の会員(後列右から4人目は藤尾まさよ先生)

永沢応急仮設住宅の人々と滋賀教区浄土宗青年会の会員(後列右から4人目は藤尾まさよ先生)

「近江米一升(おうみこめいっしょう)運動」は滋賀教区の若手僧侶で組織する滋賀教区浄土宗青年会により平成22年に生活困窮者への食糧支援を目的に始められたボランティア活動です。翌23年3月に東日本大震災が発生して以後は、被災地の支援活動へと広がりをみせてきました。

お檀家様から喜捨された心のこもった仏供米(ぶっくまい)を被災地に贈り続けて今回で5回目となる「近江米一升運動」。11人の青年僧がトラックと車に分乗して平成26年11月17日より3泊4日の日程で福島、岩手、宮城の浄土宗災害復興事務所と岩手県大船渡市にある仮設住宅などを訪問。合わせて約3.6トンの近江米を届ける活動に、本誌取材班も同行いたしました。

18日 近江米配布と万華鏡づくり

万華鏡を楽しむ仮設住宅の方々

万華鏡を楽しむ仮設住宅の方々

この日は大船渡市の2カ所の仮設住宅を訪ね「近江米配布&万華鏡ワークショップ」を開催。万華鏡手作り体験による心の教育とケアに取り組んでいる「万華鏡コミュニケート」代表の藤尾まさよ先生と浄青会員は、仮設住宅で暮らす方々と万華鏡づくりを通じて交流を深めました。「万華鏡づくりは人と人を笑顔でつなぐことができる」と藤尾先生が言うようにみな童心に返り万華鏡を見せ合って楽しんでいました。万華鏡づくりのあと「慈光が届きますように!離れてはいても応援しています」と書かれたシールの貼られた米袋を浄青会員より手渡されました。

自宅が流され500日の避難所生活を余儀なくされ、その後も仮設住宅で暮らしているという女性は、「今日は万華鏡を見て久しぶりに日常を忘れて心から楽しむことが出来ました」と喜んでいましたが、「震災後、何をしていいかわからない状況のなかでいろいろな人の支えや助けがあってここまできましたが、相変わらず不便な生活でみんなの疲労がすすんでいます」とこれから先の不安を隠しきれないようでした。

18日 一歩ずつ復興のきざし

陸前高田市の浄土寺周辺

陸前高田市の浄土寺周辺

次に一行は浄土宗災害復興岩手事務所のある陸前高田市の浄土寺へ向かいました。陸前高田市は震災の津波により甚大な被害を受けている地域で、沿岸から1.7キロほど離れている浄土寺も被災しています。周辺を見わたすとまだ復興には程遠いように見えますが、住職の菅原瑞秋上人は「現在は嵩(かさ)上げ工事が急ピッチで行われています。この周辺もいずれ住宅地や商業地になる予定ですが、人が戻ってきてくれるかどうかはわかりません。しかし浄土寺のそばには災害公営住宅もできて人が住み始めています。一歩ずつ復興の兆しは見えてきました」と希望を語ってくれました。

19日 風化する震災の記憶

翌日、こちらも津波で甚大な被害を受けた宮城県石巻市の西光寺に近江米分配のために向かいました。「この周辺はまだ瓦礫を取り除いている状態です。もとの場所に住むのをあきらめた人も多く、決して見通しは明るくはありません。また最近は人々の関心が薄れたのかボランティアの方も激減しています」と西光寺副住職の樋口伸生上人。復興は少しずつしか進んでいないにもかかわらず、震災の記憶の風化は速いスピードで進んでいるようです。しかしお檀家様の気持ちは前向きになってきており、大みそかにはお寺でお念仏を称えながらご先祖様と一緒に年を越される方も増えてきたそうです。

供養の真心を分かち合う

仮設住宅の方に近江米を渡す浄青会員

仮設住宅の方に近江米を渡す浄青会員

分配する米袋に貼られたシール

分配する米袋に貼られたシール

これら各災害復興事務所やお寺に届けられた近江米は仮設住宅に分配されたり、法要や大みそかに参拝に来られた方に配布されたりするそうですが、多くの人に「お米をいただくことは一番うれしい」との言葉をいただいているといいます。その言葉こそ米どころ滋賀県の地の利を生かした「近江米一升運動」が復興支援の一助となっている証ではないでしょうか。

この運動の立ち上げから携わってきた滋賀浄青参与の曽田俊弘上人は「まだ仮設住宅で生活されている方も多く復興の道未だ遠しの感が否めません。震災の風化を食い止め、継続的な支援の必要性を広く知っていただくために、米一升運動をさらに盛り上げたい。そして万華鏡が人と人をつなぐように、仏供米によって阿弥陀様とお檀家様と被災地の方々をつなげていきたいと思います」と今後の「近江米一升運動」の継続にかける意気込みを語ってくれました。

(取材・文 政田教正)