華頂特集記事Kacho

2018年10月

食から始まる
人々との縁

お寺と人々とのつながりを深めるため、新たな活動を始めるお寺が増えつつある。
今回は“お寺=仏事を行う場所”という考えから脱し、
生きていく上で最も身近で大切な「食」を通じて
アプローチする2つのお寺を取材した。

月に一度の食事会

豊かな自然に囲まれた滋賀県信楽町にある徳源寺では、「ご飯の日」と呼ばれる活動を行っている。これは月に一度、お寺のスペースを活用して開かれる食事会で、季節に合った食事を提供している。8月のメニューは流しそうめん。この日はお寺の前に半分に割った竹が設置され、周囲には椅子や机が並べられていた。午後5時を過ぎるとお寺の前はだんだんと賑やかになり、約60名の参加者が集まった。その年齢層は、小さな子どもからお年寄りまで幅広い。受付で参加費の100円を渡し、箸と皿を受け取ると、副住職の西山亮哲さん(34)がそうめんを持って登場。流しそうめんを必死に追いかける子どもの姿に、周囲の大人たちからも自然と笑みがこぼれ、終始和やかな時間が流れた。毎月参加しているという樋口正代さん(79)は「普段顔を合わせる機会がないので、老若男女が集まって話ができる場はありがたい」と笑顔で話した。

【徳源寺】西山副住職(中央)がそうめんを流す

【徳源寺】西山副住職(中央)がそうめんを流す

気軽に参加できるお寺を目指して

この活動が始まるまで、徳源寺に檀家が訪れる機会は法事・仏事の時だけだった。「もっと気軽に来てもらえるお寺にしたい」という副住職夫人の西山綾瀬さん(35)の思いから、本堂を利用した食事会「ご飯の日」を企画、スタートした。参加者の負担とならないよう、食事の準備は全て徳源寺が行うように決めた。

活動を始めて3年。当初20名程だった参加者も増えていき、今では遠方から車で訪れる人もいるという。参加者は主に子育て中の親と近隣の高齢者で、食事を楽しみながら、異なる世代で交流できる場となっている。檀家に限らず参加を呼び掛けたこともあり、それまでお寺と関わりのなかった人と関係を結ぶきっかけにもなっている。「この活動を始めてから、お寺から足が遠のいていた檀家さんも顔を出してくれるようになりました。仏事に小さな子どもが参加してくれたのも嬉しかったです」と副住職夫妻は活動の成果を語った。

また徳源寺では「ご飯の日」に続いて、檀家を対象に月に一度お弁当を届ける「お弁当の日」も行っている。「ただお弁当を届けるだけではなく、それぞれの家庭の見守りをするという役割もあり、法事以外で檀家さんと関わりをもつ機会にもなっています。これからはもっと活動の幅を広げていきたいですね」

【徳源寺】食事の後に花火を楽しむ子どもたち

【徳源寺】食事の後に花火を楽しむ子どもたち

「おすそわけ」から広がる支援

奈良県田原本町にある安養寺では、たくさんのお供え物を前に、定例の「おてらおやつクラブ」の活動が始まろうとしていた。

おてらおやつクラブは、お寺への「おそなえ」を仏様からの「おさがり」として頂戴し、経済的に困難な状況にある家庭へ「おすそわけ」する活動だ。法要が勤められたのち、活動内容の説明がされると、おてらおやつクラブの発起人で安養寺住職の松島靖朗さん(43)を始めとするスタッフと、活動のために集まったボランティア一同が動き出した。手際よく段ボールを組み立て、米や菓子、ジュースなどの「おすそわけ」をバランスよく詰めてゆく。中には編み物が得意な方からいただいたという手作りのぬいぐるみもあり、小さな子どものいる家庭のために一緒に納められた。段ボールが「おすそわけ」でいっぱいになると、最後には各家庭へ向けた手書きのメッセージが添えられた。

この「おすそわけ」は一度、こども食堂や母子家庭支援団体などに送られ、そこから支援を必要とする家庭や施設へ届けられる仕組みとなっている。

【安養寺】「おさがり」を詰め込む松島住職

【安養寺】「おさがり」を詰め込む松島住職

孤立を解消する手がかりに

松島さんが「おてらおやつクラブ」を始めるきっかけとなったのは、2013年に起こった母子餓死事件だった。お寺にはたくさんのお供え物がある一方で、身近な場所で食べ物に困っている人がいたという事実にショックを受け、自分にもできることからと、ひとり親の家庭にお供え物を送る活動を始めた。安養寺の檀家も「こういった支援の仕方もあるのか」「何か必要なものがあったら言ってほしい」と活動を後押ししてくれた。こうして「おてらおやつクラブ」はスタートし、他のお寺にも声をかける中で全国的に広がっていった。2017年にはNPO法人化、現在参加する寺院は930ヵ寺を越える。

厚生労働省の2016年国民生活基礎調査によると、子どもの7人に1人が相対的貧困(所得が全国平均の半分未満)の状態にあるとされる。「生存に関わるような絶対的貧困と比べ、相対的貧困は周囲からは気付かれにくい。活動の輪が広がっていくことで、国内の貧困問題を知るきっかけになれば」と松島さんは語る。また、ただ食糧支援をするだけではなく、各家庭とのつながりができることが大切だという。「おすそわけを通して、自分たちを見守ってくれている人がいる、という安心感をもつことができれば、孤立している状況を少しでも和らげ、生活するうえでの力になると思います。そうやって人々を支えるのもお寺の役割の1つではないでしょうか」

【安養寺】「おすそわけ」には手書きのメッセージを添える

【安養寺】「おすそわけ」には手書きのメッセージを添える

(取材・文 關真章)