華頂特集記事Kacho

2018年6月

自分らしく笑顔で生きる
道を求めて

大道芸人と僧侶という二つの顔を持つ松鶴家(しょかくや)ぽんさん(51)。
180度違う世界に葛藤を抱えることもあったが、
その両方を本業とし、これまで全力で頑張ってこられたのは、
たくさんの人と出会い、笑顔をもらえたからだという。

クラウンとの出会い

4月半ば、東京都練馬区の保育園で行われた仏教会の花まつり。ステージに松鶴家ぽんさんが登場すると、会場が明るい雰囲気に包まれた。マジックやジャグリングなどの巧みな技に観客から歓声と拍手が起こり、軽快なトークを交えたパフォーマンスに子どもたちも興味津々の様子だった。

ぽんさんは、東京都内の由緒あるお寺の跡取りとして生まれた。高校を卒業後、大本山増上寺に住み込んで僧侶の資格を取り、勉学に励んでいた。3年目が終わった頃、転機が訪れる。偶然見た雑誌で日本初の道化師養成学校「Ringling Bros. and Barnum and Bailey Circus Clown College」が開設されることを知った。「お寺以外のもっと広い世界を見て、何か手に職をつけたいという思いを抱いていた」と話すぽんさんは、好奇心旺盛で目立ちたがり屋。一度気になると、行動せずにはいられなかった。知識や経験が全くない中で、第一期生のオーディションを受け、見事合格。選考された理由は「体が大きく目立ったから」だという。学校には週5日、4か月間通い、クラウン芸を習得するため、パントマイム、ジャグリング、マジック、バルーン、メイクアップなどの授業をみっちり受けた。

「クラウン」とは道化師の総称で、派手な衣装とメイクをし、サーカスなどで人々に笑いや喜びをもたらす。一般的に知られている「ピエロ」もそのひとつで、ヨーロッパでは古い歴史を持つ伝統ある文化だが、当時まだ日本では浸透していなかった。卒業後は外国人の中に混じって、大阪で行われた「国際花と緑の博覧会」(1990)に出演したり、サーカスレストランで働いたりと経験を積んだ。「コミュニケーション力が高く、色んなノウハウを持っている外国人のパフォーマンスを近くで見ることで刺激を受け、自分のレベルをもっと上げたいと感じるようになった」と当時を振り返る。ショーでは大勢のパフォーマーがいるため、数分だけの出演が多く、表現力や披露できる演目の少なさも課題だった。

道化師学校卒業時。 カラフルな衣装とメイクをまとう

道化師学校卒業時。 カラフルな衣装とメイクをまとう

マジックは世界で活躍する島田晴夫氏に師事した経験もある

マジックは世界で活躍する島田晴夫氏に師事した経験もある

ロシアのサーカス学校へ留学

一人でも観客を楽しませる公演ができればと考えていた頃、ロシアで有名なクラウン「ミミクリーチ」のステージを見る機会があった。言葉を発しないパントマイムのパフォーマンスに魅了され、30歳でモスクワ国立サーカス学校に半年間留学することを決意。「なんとかなるさ」という楽観的な性格がここでも発揮された。英語、ロシア語もまともに話せない中、日本人ただ一人。通訳の人に助けてもらいながら、身振り手振りのコミュニケーションと気持ちの強さで乗り切った。どの授業もレベルが高く、定期的に行われる試験や学校内にあるサーカスリングでの実践的な練習を通して、自分の可能性を広げることができた。観客と一体になり、毎回のステージを精一杯楽しむことの大切さも学んだ。

様々なステージや大会、テレビなどに出演し、いつも明るく笑顔で振る舞うが、実はかなりの人見知り。緊張や失敗はつきもので、思うようなパフォーマンスができないこともある。特に屋外は天候に左右されやすく、自分の吹いた火が風で顔の右半分に直撃し、火傷を負いながらショーを続けたこともあったという。

大道芸において日々の練習は欠かせない

大道芸において日々の練習は欠かせない

人の心を癒す仕事

芸歴20年を迎えた8年前、父親を亡くし、お寺の住職となった。それまでは、周りから興味本位に見られることが辛く、それぞれの仕事をはっきりと分けていたが、もっと自分らしく生きようと、大道芸人で僧侶であることを自身の書籍で初めて公表した。東北の被災地を訪れた時には、受け入れてもらえるのかという不安もあったが、被災者の方に「仮設住宅にいると笑うことがなかったけど、今日は心の底から笑ったよ」「拍手をしていると嫌なことや不安なことも忘れるよ」と言っていただき、改めて笑いが必要とされているのだと気付かされた。

「クラウンと出会ったことで、自分の知らない世界が開け、僧侶として人と向き合うための新しい引き出しが増えた」と話すぽんさん。笑いを求めて公演に来る観客、檀信徒や悩みを抱えてお寺に相談に来る方などに対して、その時々に合った対応をし、気持ちを切り替えなければならない難しさはあるが、どちらの仕事も多くの人と出会い、心を癒すという点では繋がっている。「たくさんの笑いや癒しを届けたい」――その思いは人々の心にきっと届いているだろう。

お寺の本堂で手を合わせる

お寺の本堂で手を合わせる

(取材・文 国松真理)

プロフィール

松鶴家 ぽん(しょかくや ぽん)

大正大学仏教専修科卒業後、浄土宗大本山増上寺にて修行。1989年、「Clown College Japan」に入学。1997年にはロシアの「State School of Circus and Variety Arts」に留学。2001年、アメリカ・ラスベガス「Circus Circus Hotel, Casino & Theme Park」に出演。芸を磨き、帰国後は国内外でのショーやサーカスに出演。2003年、漫談家「松鶴家千とせ」師匠に師事。現在は、住職としての多忙な日々を送りつつ、パフォーマーとしてイベント等でも活躍中。

 

松鶴家ぽんオフィシャルサイト
http://www.syokakuyapon.com/