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2017年11月

本堂再建
-檀信徒の決意ー

滋賀県は人口あたりの寺院数─寺密度が全国で最も高い。お寺と檀家の繋がりの希薄化が問題にもなっている昨今だが、少ない檀信徒で熱心にお寺を支える信仰文化が滋賀には根付いている。不況の風が吹く中でも、本堂の再建を発願した滋賀教区の2つのお寺を取材した。

毎月2万円の積み立て

新しくなった淨福寺本堂。

新しくなった淨福寺本堂。

淨福寺内部。障子を外せば縁まで広く使うことができる。

淨福寺内部。
障子を外せば縁まで広く使うことができる。

初めに訪ねたのは甲賀市の淨福寺。住職の福岡朋裕さん(59)は、お寺の行事や檀信徒の奉仕活動を取り上げた「淨福寺だより」を発行し、日頃の感謝の気持ちを綴りながら檀信徒とともにお寺を守っている。

今回の本堂再建の話は、10年前の茅葺屋根の葺き替えに遡る。一度本堂の調査をしたところ、屋根以外にも、柱の高さに違いが生じていることなどがわかった。そこで急遽総会が開かれ、このまま屋根だけを葺き替えても長くはもたないため、すべてを新しく建て替えることに決まった。しかし調査の結果、再建には1億円という多額の費用が必要だとわかった。生活を考えると非常に大きな負担だが、41軒の檀家それぞれに毎月2万円、10年間の積み立てで目標額の1億円を集める計画を立てた。

積み立て6年目には建築委員会が設けられ、本堂再建に向け具体的な設計に入った。「限られた資金ではあるが、先人から受け継いだ本堂の形式を踏襲し、次世代へ伝えていきたい」という森地隆照さん(建築委員長)の熱意により、以前と同規模の本堂ができることになった。

資金面以外にも、備品の整理や、本堂横の竹藪の整備など、再建に向けて檀家総出で尽力した。再建中も本堂の前で手を合わせ拝む人がいたという。福岡さんは「淨福寺だより」を通し、木材が建築会社のこだわりですべて国産になったことなど、工事の様子を伝えた。

1年半の工事の末、誰もが納得する立派な本堂が完成。秀熊邦麿さんは「お寺は心が落ち着き、阿弥陀様や皆と会えるところ。新しい本堂は400年500年先まで続いてくれたらいいですね」と、再建された本堂を前に誇らしく語った。

後継者はいなくても

再建中の圓光寺本堂。

再建中の圓光寺本堂。

一部には以前の木材を残し、これまでの歴史を伝える。

一部には以前の木材を残し、これまでの歴史を伝える。

続いて取材したのは豊かな自然に囲まれた東近江市の圓光寺。こちらも当初瓦を葺き替えるだけの予定だったが、屋根裏を始め本堂全体に白蟻の被害が及んでいることが判明。総会を開き、改めて話し合いが行われた。圓光寺では次の跡継ぎが決まっていないことや、檀家数も35軒と多くないことから、現状維持を希望する声があった。再建の際に、本堂を小さくしようという意見も出た。長年お寺に携わってきた檀家の河村幸俊さん(建築委員長)は、本堂を守ってきた先代の志を、次の代へ伝えていきたいことや、お寺の行事のためにも、今と同じ大きさが必要なことを具体的な場面を挙げて説得。結果、同じ規模の本堂を再建する方針を全員が納得した。

建築会社は、過去に再建を果たした近隣のお寺に話を伺い参考にした。親戚には頼らず、できるだけ自分たちの力で再建したいと考え、瓦志納と写経以外での寄付は募らず、費用の大半は檀家の中で積み立てた。

新しい本堂の一部には、以前の木材が使用される。「先祖から受け継いだものなので、次に残していきたい」と住職の森島照光さん(66)。再建には大工をしている檀家も携わり、お寺への理解が得られたのも心強かった。

檀家のお一人は「昔はよくお寺に行き、生活の中にお寺があったが、今ではその機会も減った。再建を機に、ホールで行っている葬儀をお寺で執り行うなど、活用する機会を増やしていきたい」と、これからの目標を語った。圓光寺の本堂は昨年10月から再建が進められており、年内には完成する予定だ。

今のお寺があるのは我々の先祖が守り、受け継いできたおかげである。次の代へと繋げていこうという思いとたくさんのご縁。それらが再建への力となったのは間違いない。

(取材・文 關 真章)