法然上人のお言葉― 元祖大師御法語 ―

前篇
第三十一章

勧進行者かんじんぎょうじゃ

他宗の人との対話も論争も慎め。念仏者には助力を惜しむな。

(勅伝第二十五巻)

御法語

念仏ねんぶつぎょうしんぜざらんひといて、御物語おんものがたそうらわざれ。いかにいわん宗論しゅうろんそうろうべからず。あながちに異解異学いげいがくひとて、これをあなずり、そしることそうろうべからず。いよいよおも罪人ざいにんになさんこと不便ふびんそうろうべし。

極楽ごくらくねがい、念仏ねんぶつもうさんひとをば、塵刹じんせつほかなりとも、父母ぶも慈悲じひおとらずおぼすべきなり。今生こんじょう財宝ざいほうともしからんひとをば、ちからくわえさせたまうべし。もしすこしも念仏ねんぶつこころそうらわんひとをば、いよいよおんすすそうろうべし。これも弥陀如来みだにょらい本願ほんがんみやづかいとおぼそうろうべし。

現代語訳

念仏ねんぶつぎょうしんぜざらんひといて、御物語おんものがたそうらわざれ。いかにいわん宗論しゅうろんそうろうべからず。あながちに異解異学いげいがくひとて、これをあなずり、そしることそうろうべからず。いよいよおも罪人ざいにんになさんこと不便ふびんそうろうべし。

念仏の行を信じていない人に出会っても、話し込んではなりません。まして宗派同士の論争などすべきではありません。解釈や学問の異なる人を見て、むやみにその人を軽んじ、誹謗することがあってもなりません。〔相手を〕ますます重罪の人にするのは、気の毒でありましょう。

※いよいよ…なさん事=宗論の末、念仏の教えを誹謗するという重罪を、相手に犯させること。

極楽ごくらくねがい、念仏ねんぶつもうさんひとをば、塵刹じんせつほかなりとも、父母ぶも慈悲じひおとらずおぼすべきなり。今生こんじょう財宝ざいほうともしからんひとをば、ちからくわえさせたまうべし。もしすこしも念仏ねんぶつこころそうらわんひとをば、いよいよおんすすそうろうべし。これも弥陀如来みだにょらい本願ほんがんみやづかいとおぼそうろうべし。

極楽を願い、念仏を称える人がいれば、無数の世界のかなたにあっても、父母の慈愛に劣らずお思いになるべきです。この世での財産が乏しい念仏者には援助なさって下さい。もしわずかでも念仏に心を寄せている人には、ますます〔念仏を〕お勧め下さい。これも阿弥陀如来の本願へのご奉仕とお考えになって下さい。

※宮仕い=恩返し。本来、宮中に仕えること。