国宝御影堂落慶Great repair of Mieidō

国宝・御影堂ものがたり

第5回御影堂の瓦の歴史

葺き残しの瓦

御影堂から離れた場所でその瓦屋根を望むと、大棟の中央に4枚の瓦が置かれていることに気がつきます。
立派な棟に不似合いとも思えるこの4枚の瓦。御影堂が竣工した時に名工左甚五郎があえて残したままにしたといわれています。
「満つれば欠くる世の習い」―満月になった月がやがて欠けていくように、栄華を極めたものはやがて衰退に至る―
という意味の故事にちなんで、わざと瓦を置くことで、まだ知恩院が発展途上であることを示しているのです。

こういった工夫は建造関係ではよく行われているようで、例えば、日光東照宮の陽明門では柱12本の内1本だけを逆さにしています。古来では完璧なものには魔が潜むとされ、こうして未完成な部分を残すことで難を逃れようと願ったのです。
これは人間も同じで、自分を不完全な人間だと思うからこそ、より頑張ろうとしたり、他者と補い合おうとする気持ちが生まれるのではないでしょうか。昔の人は、人の世の常の本質をよく知っていたのですね。

葺き残しの瓦